損害保険大手による企業向け保険の価格調整問題で、金融庁は26日、東京海上日動火災保険など4社に適正な競争のための環境整備を求めた。競争を避け、常態的に保険料を調整してきた「なれ合い」の慣行を是正させる。同庁は、企業向け保険の約9割を大手4社が引き受ける寡占体制が不正の温床となったとみている。
 価格調整は損保会社が支払いリスクを分担する「共同保険」で発覚。1社ではリスクを抱え切れない大企業向けでは一般的な契約だが、入札に当たって4社の担当者が電話やメールなどで情報交換し、企業が支払う保険料が下がらないよう価格調整するケースが横行した。
 4社以外に企業向け保険の担い手が限られていることが、公正な競争をゆがめる土壌となった。損保業界は1998年の法改正で保険料率が自由化。2000年代には合併・再編が進み、14年に現在の大手4社体制に集約された経緯がある。
 近年は自然災害が激甚化する中で、保険金支払いが増え、4社とも火災保険の収支が悪化。リスクの大きい企業向け火災保険の収益改善が、業界にとって大きな経営課題となっていた。
 日本損害保険協会の新納啓介会長(あいおいニッセイ同和損保社長)は21日の記者会見で「18、19年ごろから(価格調整の)疑義件数が増えた」と指摘。保険金支払いの増加による厳しい経営環境が、現場を価格調整に走らせる要因になったと釈明した。
 だが、収支改善は保険の中身やサービス内容を武器に顧客企業と交渉し適正な保険料を求めるのが常道。価格調整で実現することは公正な競争を阻害するとの批判は避けられない。この問題では、公正取引委員会が大手4社に独禁法違反(不当な取引制限)容疑で大規模な立ち入り検査に入る事態に発展。今後、4社は排除措置命令や課徴金納付命令を受ける可能性がある。
 新納会長は「業界の商慣習を見直す」と強調するが、損保業界では、中古車販売大手ビッグモーターによる保険金の不正請求問題を含めて法令順守や顧客本位の意識の欠如を疑わせる問題が相次いでおり、信頼回復は容易ではない。 

(ニュース提供元:時事通信社)