サプライチェーン全体でリスクにどう向き合えばいいのか(Adobe Stock)

予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。

5つのサプライチェーンリスク

名古屋市立大学教授
下野 由貴 氏
(しもの・よしたか)


神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。自動車産業や電機産業を対象として企業間取引関係やサプライチェーン・マネジメントを研究。

――サプライチェーンリスクマネジメントが対象とするリスクには、どのような種類がありますか?
サプライチェーンリスクは大きく5つに分類できます。まずは自社に存在するリスクが2つあります。1つはプロセスリスクです。自社の工程に直接影響を与えるリスクで、例えば工場設備の故障や人為的ミスで生産が停止するようなケースが該当します。もう1つはコントロールリスクです。自社工程を制御するシステムや手順の誤用などによるリスクで、例えば受発注量のミスが該当します。

自社以外に存在するリスクには、供給リスクと需要リスクがあります。供給リスクはサプライチェーンの川上、つまり仕入れ先に起因するリスクです。供給能力の不足、納期遅延、品質不良などが含まれます。

一方、自社より川下に存在する需要リスクは、顧客からの需要の急増や急減、市場の変動などが該当します。最後に、企業のコントロールを越えたサプライチェーンの外部に存在する環境リスクがあります。これはサプライチェーン全体に影響を及ぼすもので、社会や政治の混乱、自然災害、景気の変動、新技術の登場などが該当します。これらは、サプライチェーンマネジメント研究の第一人者、英国のクランフィールド大学・マーチン・クリストファー名誉教授による分類です。

――最近のサプライチェーンリスクマネジメントの動向について教えてください。

近年、対象とするリスクと管理範囲が大きく広がっています。従来は一次サプライヤーまでの管理が主流でしたが、現在では「先の先の先」――つまり、サプライチェーンの末端に位置する企業までを含むようになっています。また、対象リスクの拡大については、ESG(環境・社会・ガバナンス)関連リスクが代表的です。温室効果ガスの排出量、廃棄物処理、労働環境の整備、人権侵害など、多様なリスクが管理の対象になっています。

直接的な取引がないサプライヤーで発生したトラブルであっても、その責任が追及されるケースが増えています。これはサプライチェーンという考え方が浸透し、ガバナンスの観点から社会的な要請が高まった結果といえるでしょう。