東北大は東日本大震災の翌年、災害科学国際研究所(災害研)を発足させ、研究活動を通じ防災推進に取り組んできた。昨年4月、3代目所長に就任した栗山進一教授(災害公衆衛生学)は「被災者の役に立ち、次の災害に備えてもらうことがわれわれの使命。国内外の大学や研究機関と共同研究を行い、知見を生み出していきたい」と語る。
 災害研はこれまで、報道などを通じて家具の転倒防止や家の耐震化の重要性などを伝えてきた。しかし、元日に発生した能登半島地震の被災状況を見て、栗山氏は「情報発信は十分でない」と感じたという。同氏は、連携する大学と協力し、自治体や住民への呼び掛けなどに一層注力したいと語る。
 一方で、「人は行動をすぐに変えるわけではない」と指摘する。長年、専門分野としてきた「予防医学」でそれを経験したからだ。約50年前は現在と比べ喫煙者の割合は高く、健康に対する意識は低かった。講演会などで生活習慣の改善を訴えてもすぐに実践してくれる人はほとんどおらず、「無力感を感じたこともあった」。
 それでも、健康増進法の改正や学校などで繰り返し取り上げられたことで、徐々に社会の風潮が変わってきた。同氏は、ここ数十年で広がった「禁煙」などを、今度は「防災」に置き換えていきたいと訴える。「一対一で直接呼びかけることも有効だ」として、高齢者や妊婦らと接触する機会が多い保健師が防災対策を呼び掛ける実証実験にも取り組むという。
 震災から13年を迎え、風化を懸念する声もあるが、「防災の取り組みや人々のつながりはいつまでも続く」と強調。「結果として行動を変える人がどれだけいるかが重要だ。私たちにできることを伝えていきたい」と話す。 
〔写真説明〕インタビューに答える東北大災害科学国際研究所の栗山進一所長=1月17日、仙台市青葉区

(ニュース提供元:時事通信社)