2025/03/31
防災・危機管理ニュース
南海トラフ巨大地震の新被害想定では、津波から人命をどう守るかが大きな課題として改めて突き付けられた。2012~13年の前回想定が公表されて以降、沿岸自治体は避難施設整備などに取り組んできた。実際に地震が起きた際、住民が避難行動をすぐに取れるかどうかがポイントとなる。ただ、訓練への参加率が低く住民意識に課題があったり、高齢化の中でいかにスムーズな避難を実現させるかで悩んだりするケースもあり、自治体の模索は続く。
南海トラフ地震に備えるため、29都府県707市町村が「防災対策推進地域」に指定されている。地域内では、前回想定時に2244棟だった津波避難施設は、23年4月時点で1万2471棟に増加。各地のハード整備は進んだ。
高知県黒潮町もその一つ。最大津波高が34メートルに上るとの前回想定が公表された後、地区ごとに防災ワークショップや訓練を定期的に開催。町民ごとに、どの経路でどこに逃げるかを確認する「津波避難カルテ」を作成してきた。カルテを基に、利用者が多い避難道や避難タワーを整備し、備えた。
ただ、30%程度に落ち込む避難訓練の参加率向上が課題となっている。新型コロナウイルスの流行以前は45%前後だったといい、町は粘り強く参加の呼び掛けをする方針だ。
美しい海岸線を観光資源とする静岡県伊豆市では、観光客を含めた避難対策が欠かせない。景観を損なうなどとして大規模な防潮堤は整備しない一方、高層の旅館やホテルを津波避難ビルに指定している。24年には、避難タワーと観光施設を兼ねた複合施設として「テラッセオレンジトイ」が完成。近くの海水浴場からの避難先として活用できる。
市内では住民の高齢化率の上昇が懸念材料の一つ。徒歩に替わる手段として、22年に電動車いすでの避難実証を行い有効性を確認したが、導入に至っていない。引き続き避難支援策を探っている。
1メートルの津波が最短2分で到達する和歌山県。前回想定を受けて県は、津波から逃げ切れない避難困難地域(12市町61地区)の解消を目指して対策を講じてきた。ただ、高層の建物がなく避難ビルの選定が進まず、避難タワーを建設するにも費用がかかり「一足飛びにはいかない」(担当者)のが実情という。
能登半島地震で孤立集落が発生したことを踏まえ、紀伊半島に位置する県としても危機感は募る。担当者は「災害関連死を防ぐためにもきめ細かい対策を着実にやる」と強調した。
〔写真説明〕津波避難タワーと観光施設を兼ねた複合施設「テラッセオレンジトイ」=2024年6月、静岡県伊豆市
(ニュース提供元:時事通信社)

防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
ラストワンマイル問題をドローンで解決へBCPの開拓領域に挑む
2025年4月、全国の医療・福祉施設を中心に給食サービスを展開する富士産業株式会社(東京都港区)が、被災地における「ラストワンマイル問題」の解消に向けドローン活用の取り組みを始めた。「食事」は生命活動のインフラであり、非常時においてはより一層重要性が高まる。
2025/09/15
-
-
機能する災害対応の仕組みと態勢を人中心に探究
防災・BCP教育やコンサルティングを行うベンチャー企業のYTCらぼ。NTTグループで企業の災害対応リーダーの育成に携わってきた藤田幸憲氏が独立、起業しました。人と組織をゆるやかにつなげ、互いの情報や知見を共有しながら、いざというとき機能する災害対応態勢を探究する同社の理念、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/09/14
-
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/09/09
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/09/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方