上司と部下のデートはもうできない!?
第18回:CEOの不倫・恋愛スキャンダルというリスク

吉野 ヒロ子
1970年広島市生まれ。博士(社会情報学)。帝京大学文学部社会学科准教授・内外切抜通信社特別研究員。炎上・危機管理広報の専門家としてNHK「逆転人生」に出演し、企業や一般市民を対象とした講演やビジネス誌等への寄稿も行っている。著書『炎上する社会』(弘文堂・2021年)で第16回日本広報学会賞「教育・実践貢献賞」受賞。
2025/10/14
共感社会と企業リスク
吉野 ヒロ子
1970年広島市生まれ。博士(社会情報学)。帝京大学文学部社会学科准教授・内外切抜通信社特別研究員。炎上・危機管理広報の専門家としてNHK「逆転人生」に出演し、企業や一般市民を対象とした講演やビジネス誌等への寄稿も行っている。著書『炎上する社会』(弘文堂・2021年)で第16回日本広報学会賞「教育・実践貢献賞」受賞。
今年の夏休みは、「不倫スキャンダル報道の歴史的変遷」を論文としてまとめるべく、雑誌専門図書館「大宅壮一文庫」に通っているうちに終わってしまいました。
どうも、1990年代あたりから不倫スキャンダルの扱いが厳しくなっていったようで、それ以前の記事を見ると「今だったら、即大炎上しそう…」としか言いようがないやんちゃな発言もまま見られ、なかなかなかなか興味深かったです。
論文がまとまったらご紹介しようと思っていたのですが、この夏は立て続けにCEOの不倫・恋愛スキャンダルが報道されていたので、今回は、CEOの私生活が企業のリスクとなる問題をまとめてみたいと思います。
まずは、直近の2事例を紹介しましょう。最初の事例は、かなり報道されていましたので、皆さんもご存知だと思います。
2025年7月、ロックバンド「コールドプレイ」のコンサートで、アメリカのデータ分析企業アストロノマー(Astronomer)のCEO(既婚男性)が女性役員を後ろから抱きしめているところを、スクリーンに観客カップルを映し出してキスを促す「キスカム」に抜かれてしまい、慌てて隠れようとしたところ、ボーカルのクリス・マーティンに「彼らは不倫か、ものすごくシャイか、どちらかだね」といじられてしまいました。
この「キスカム」の映像がTikTokに転載されると、すぐに身元が突き止められ、両者は即退任となりました。
ただし、アストロノマーは転んでもタダでは起きず、クリス・マーティンの元妻であるグウィネス・パルトロウを起用して、同社が話題になったことを暗に言及しつつ、事業内容を紹介する1分間の動画を公開しました。私的な不祥事だったこともあり、この対応は、BBCニュースでクレバーだと評価されたそうです。
<参考>河崎環「CEOの不倫現場が全世界に大拡散!→会社の評判を急回復させた後任CEOの「天才的な反撃PR』」(ダイヤモンド・オンライン2025.9.5)
https://diamond.jp/articles/-/372044
日本には、キスカム文化はありませんが、プロ野球の試合などで、家族連れなどを球場のスクリーンに映すイベントは普通に行っています。試合中継で観客席を抜くこともあります。ここまで派手にバレなくても、社員が見ていて「あれ?今、うちの社長が映った??」となることは十分あり得そうです。
もう一つは、2025年9月に報道された、ネスレCEOが社内恋愛を報告していなかったことで退任させられた事例です。
<参考>「ネスレがCEO解任、部下との恋愛関係巡り 就任1年」(ロイター2025.9.1)
https://jp.reuters.com/markets/global-markets/3KZMUXR5ZFPAPGYQET4E4U6H74-2025-09-01/
それなりに検索したのですが、ネットでは彼の結婚状態はわからず、相手も直属の部下という報道しかないので、不倫だったのか、独身同士の恋愛だったのかは不明です。日本の企業では、社内恋愛を禁止している企業はほぼありませんし、報告義務もありません。ネスレの場合、なにが問題になったのでしょうか。
実は、大宅壮一文庫で興味深い記事を見つけていました。「クリントン大統領スキャンダルの影響 経営者の不倫は身を滅ぼす セクハラ理由の解雇急増」(日経ビジネス1998.3.2)という記事です。
アメリカでも、社内恋愛が最初からNGだったわけではありません。1994年に結婚したビル・ゲイツとメリンダ前夫人は、マイクロソフト社内で出会っています。
ですが、この90年代末の記事では、セクハラ訴訟のリスクが高まる上、当事者の同僚がエコ贔屓を疑ったり、職場の士気が落ちたりするなどの理由で、社内恋愛を制限する動きがあると紹介されています。インテルが、ガイドラインを設け、特に管理職は従業員と恋愛関係になることを禁止しているという説明もありました。
ちなみに、20年後の2018年、当時のインテルCEOが、過去に同社従業員と「合意に基づく不適切な関係」を持っていたことが明らかになり、辞任しています。
<参考>熊村剛輔「『社内恋愛』を徹底排除するアメリカ人の事情」(東洋経済オンライン 20.8.8.13)
https://toyokeizai.net/articles/-/232875
より正確には、「アンチ・フラタニゼーション」(※)と言い、職場内外での親密な関係を制限する規定を設けるものだそうです。下のコラムで紹介されている2018年の調査では
となっているそうです。ネスレCEOの退任は、この流れで起きたのです。
(※)鈴木 裕「社内恋愛禁止規定の広がり-アンチ・フラタニゼーションとは?」(大和総研 2021.3.4)
https://www.dir.co.jp/report/column/20210304_010619.html
『釣りバカ日誌』という、社長と平社員が釣りを通じて親友となる漫画/映画がありますが、21世紀の欧米の大企業ではあのような関係はNGということですね。
日本人の感覚だと、不倫は確かにマズいですが、普通の恋愛、普通の友情ならまぁまぁ問題ないのでは…と思う方も多いと思いますが
などなど、よろしくないことになる可能性はあります。
特に上司と部下の関係だと、いくら当人が公平に評価しているつもりでも、周囲がそうは見ないこともあります。職場の公平性を確保するために、最初からガイドラインを設けてしまえ、ということなのでしょう。
とはいえ、上のコラムで紹介されている、2018年の調査では上司とのデート経験率は22%となっており、そこまで厳格に守られているわけではないようです。ただし、明確な規定がある企業で、違反が見つかれば、CEOだろうが辞任ということになってしまうのです。
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