◇技術力獲得までの時間稼ぎ
 前田宏子・住友商事グローバルリサーチシニアアナリストの話 中国の習近平国家主席は、米中対立のエスカレーションを抑えることに主眼を置いていた。今回の会談では、根本的・構造的な対立の要因は解決していない。中国は人工知能(AI)などの科学技術の「自立自強」を目標に掲げており、米国に負けない実力を得るまでの時間稼ぎをする意味合いが強い会談だった。
 第1次トランプ政権の時期、習氏は国内の権力基盤が現在ほど安定しておらず、米国に対し受け身の対応を迫られた。現在は3期目に入り、習氏の権力は盤石だ。中国側はしっかりと準備し、自信を持って会談に臨んでいた。
 それを象徴するのがレアアース(希土類)の輸出規制だ。対米交渉だけでなく、中国が他国に影響力を発揮する上でも非常に強力なカードになる。輸出規制を延期することはあっても、撤回を明言することは今後も絶対にないだろう。
 米国産大豆の輸出拡大に関して、トランプ大統領は成果として強調している。しかし、中国が米国から大豆を購入する量は限定的になるとみられる。ブラジルから調達するシステムが既に構築されているからだ。
 合成麻薬「フェンタニル」問題に関連した関税の引き下げは、中国にとって大きな成果だ。10%の引き下げであれば、インドやブラジルより少し低い税率になる。
 
 ◇交渉の本番は次回
 佐橋亮・東京大東洋文化研究所教授の話 今回の首脳会談で米中の交渉がまとまったとは言えない。本当の意味で両国が得たもの、失ったものが見えるのは次の会談になる。次回こそ本番だ。
 トランプ米大統領は、強権的な中国を相手に交渉をすることが、国内での支持集めの良い材料になると考えているだろう。ただ、今回の交渉はレアアース(希土類)の対米輸出規制の先送りや、合成麻薬「フェンタニル」の規制強化の他に追加的な成果は見えず、米国で実質的に大きな意味を持つか疑問だ。
 一方、中国はトランプ氏を1期目に研究し尽くしている。レアアース規制での攻勢は最たる例だ。習近平政権は関税引き下げで合意するなど一定の成果を得たと言える。
 今後、米国がどこまで関税を引き下げるかという点は、世界経済の現状を鑑みると重要だ。最先端半導体などを巡り、トランプ氏が自国の経済安全保障でどこまで譲るかも見どころだ。トランプ氏が訪中すれば、共同声明など何らかの成果文書が作られる可能性が高いが、台湾問題に言及するかも注目だ。
 今後の米中関係は悪化の恐れも、ビッグディール(大きな取引)に達する可能性もあり、不安定な状況が続くだろう。日本が米国の対中政策に及ぼせる影響は小さいが、中国の台頭が東アジアの安全保障や国際経済に不確実性をもたらすと伝えることが大事だ。 
〔写真説明〕前田宏子・住友商事グローバルリサーチシニアアナリスト(本人提供)
〔写真説明〕佐橋亮 東京大東洋文化研究所教授(本人提供)

(ニュース提供元:時事通信社)