知床観光船の沈没事故を教訓に、国土交通省は2022年12月、小型旅客船の安全規制強化策を取りまとめた。運航管理者らに対する試験制度の導入など、全66項目に及ぶ対策は来年度中にすべて実施される見通しで、今後は実効性の確保が課題となる。
 運輸安全委員会は事故調査報告書で、「知床遊覧船」社長桂田精一被告(62)が船に関する知識や経験もないのに安全統括管理者兼運航管理者に就任していたと指摘。同社には運航や安全の管理体制が存在せず、国交省の監査後も改善されていなかったとした。
 これを受けて国交省は、安全統括管理者と運航管理者に海事知識などを問う試験を今年5月から開始。資格者証の取得には試験合格と所定の実務経験を必要とした上で、2年間の更新制とし、船長と運航管理者との兼務を原則禁止した。
 また、各運輸局の監査官を増員するなどして事業者への抜き打ち監査も実施。昨年8月にはJR九州子会社の高速船「クイーンビートル」の浸水隠しが発覚し、前社長らの書類送検に結び付いた。
 知床沖で沈没した観光船には、船首部のハッチに不具合があった上、甲板下の隔壁に開いた穴から浸水が拡大した。事故3日前に行われた国の検査代行機関「日本小型船舶検査機構」(JCI)の中間検査ではこうした不具合が見逃されており、国交省はJCIの検査体制も見直した。
 旅客船だけでなく、遊漁船も含む船舶の安全基準を強化。小型船の隔壁水密化や、水に漬からない改良型の救命いかだ搭載などを義務付けた。
 ただ、規制強化に伴う運航要員の増加に対応できず、休業を余儀なくされた小型船事業者からは「全国一律ではなく、地域の実情を知ってほしい」との声も上がる。国交省のある幹部は「現状との差をどう埋めるかが課題で、現場と話し合っている」と語った。 
〔写真説明〕国土交通省=東京都千代田区

(ニュース提供元:時事通信社)