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環境格付は、投資家が、環境経営を行う企業への投資活動に対し、必要不可欠な評価ツールです。国外の環境格付は、それぞれの国の格付機関が、独自の評価基準と格付表示の方法に従って、格付を展開しています。第23回に引き続き、ここでは、アメリカと欧州に焦点を当て、国外の環境格付とサスティナビリティレポーティングのガイドラインの内容を紹介いたします。

(1) 国外の環境格付の内容と特徴

国外の環境格付は、環境格付機関が、独自の方法によって格付を実施しています。ここでは、代表的な7機関による「主な格付活動特徴」、「評価基準」、「格付表示」の内容の一部を紹介しますと、図表1のとおりです。

図表1 国外の環境格付の内容(一部)

環境格付機関名・国・設立等 主な格付活動特徴 評 価 基 準 格 付 表 示
(a) CE (注1) (米) NO 1969年設立 ・社会的責任を消費者・投資家 に提供 
・企業の社会的責任を評価 “Shoing for a Better World” や、“The Camaign for Cleaner Cororations”の表彰制度を実
社会的評価は7条件で、環境、労働環境問題、寄付や社会貢献活動、家族への福祉、女性の登用、マイノリティの登用の7つ
・環境評価は225データ項目を定量評価、環境の影響、環境報告書・情報開示、法規制遵守、環境マネジメントシステム4項目
A、B、C、Dの4段階の相対的評価
・環境は同一業種内比較、それ以外は、全業種共通評価
・各評価領域の総合格付は行わない
(b)Innovest(注2) (米) 民間企業 1995年設立 ・環境と財務の関係に特化した投資情報会社
・環境を組み入れた環境パフォーマンス格付システムのEco Value 21™(注8)分析モデルの環境格付を実施
・日本・アメリカ・欧州1,200以上の格付
投資家向け情報サービスに特化し、収益チャンスや環境マネジメント能力を評価
環境効率性と持続可能性を重視して企業評価
環境体制と環境戦略(マネジメント)、産業別環境リスク、環境ビジネスの柱からなる60項目について分析して評価
環境パフォーマンスより、それによってもたらされる収益チャンスや環境マネジメント能力を評価
全60項目に関して業界内の他企業との比較において相対評価として企業の格付をAAAからCCCまでの7段階評価で表す
(c) IRRC (注3) (米) 企業情報調査機関 1972年設立 ・社会的責任投資に関する企業情報調査機関
・環境情報に関してニューズレター、リサーチレポートと電子媒体による企業情報データベースを提供
企業環境プロフィールは500社をカバー
・NTTデータ経営研究所と提携
環境プロフィールは、政府に報告義務のあるデータ、企業に対する環境アンケート調査、新聞・雑誌などの報道記事、米証券取引委員会により発行を義務づけられている書類(フォーム10k)の4項目より構成 ・多様な公的環境データを 売上高原単位で指数化し、企業間比較を容易にしている
・異業種間比較を前提とし ない
・格付は行わない
(d) CG (注4) (米) 民間企業 1976年設立 ・SRI (注9)型金融サービス会社の草分け、SRI型ミューチュアルファンドではアメリカ最大手で8本のファンドを運用
・各ファンドに目的に合わせた社会的クライテリアを設け、環境に詳しい2本のファンドのクライテリアを提示
・Calvert World Values International Equity&nbs; Fundの評価スクリーンは、製品の環境配慮、高環境パフォーマンス、廃棄物で評価
・Calvert Social Investment Fund(アメリカ内の株式・債券・バランス型ファンド)の評価スクリーンは、環境負荷を最小化する製品やプロセスの開発に成功した企業などを含む5項目で評価
・格付は行わない
(e) KLD (注5) (米) 民間企業 設立日不明 ・機関投資家向けの企業の社会的評価・調査情報提供機関
・社会的投資指数のDomini400を1990年に作成した先駆的SRI調査機関として有名
・SRIファンドのベンチマークとして使用 ・機関投資家向けに電子データベースによる情報を提供、社会的評価の格付
・各企業の社会的な調査票と市場ごとの排除スクリーンから構成
(プラス評価)エコ商品、サービス、公害防止、リサイクル、代替エネルギー、情報開示とコミュニケーション
・(マイナス評価)有害廃棄物、規制違反、オゾン層破壊物質、大量の排出、農薬
・特に廃棄物と有害物質の放出、代替えエネルギーが重視され、エコ製品・サービスをプラス面で評価する考え方が中心
記述式の企業プロフィールでは、環境以外にも幅広いSRI的テーマがカバーされている
・投資家は自分のスクリーニングに必要な項目をピックアップして使用
・環境面の強さと弱さを示す
・格付方法の詳細は公表されていない
(f) Oekom (注6) (ドイツ) 民間企業 1989年設立 ・機関投資家向けの環境・社会評価の格付会社
・1993年から環境格付調査を開始、1994年から本格的な環境レーティングサービスを実施
・一般向けには企業の環境格付、環境プロフィール、産業レポートを 販売
(全業種共通)企業概要、環境バランスシート、環境リスク・法規制遵守、環境面の強弱、環境側面と重要性
・(業種類型別)環境マネジメント、環境配慮製品・サービス、環境パフォーマンスデータ
・各項目にA+からD-の評価
・業種ごとに異なる重み付けで全体評価、製造プロレスと製品やサービスの環境影響を分析評価
・A+、A、A-からD+、D、 D-までの12段階評価
・製品・サービスの環境適合性と使用時の環境負荷による業種別ウエイト付
・異業種間比較が可能
社会・文化・環境の3側面から格付し、企業のサステナビリティを評価
社会・文化格付50%、環境格付50%の割合で実施
(g) SAM S.G(注7) (スイス) 民間企業 1995年設立 ・スイスが本拠で持続可能性を評価尺度とする投資運用アドバイスと情報サービス会社
・ダウジョーンズ社のDJGI(Dow Jones Global Index)をもとに持続可能性を加味した株式指数DJSGI(Dow Jones Sustainability Grou Index)シリーズを開発
・日興グローバルサスティナビリティファンドに採用
レーティング評価は、最初に73業種について持続可能性の評価
・個別企業の評価基準は、持続可能性の機会(配点36点)とリスク(配点36点)に大別し、両面について、方針と戦略・管理・業種の特性ごとの3分野で評価し、各6項目の配点は12点で、情報の質の配点2点を加え、全体の最高点74点で評価
持続可能性の方針と戦略・管理および業種特有の持続可能性の機会とリスクで最高74点のスコア
・業種別上位10%をDJ-SAM 指数として選定
 

(注1) CEP : Council on Economic Priorities 、(注2) Innovest : Innovest Strategic Value Advisors、(注3) IRRC : Investor Responsibility Research Center 、(注4) CG : Calvert Group、(注5) KLD : Kinder Lindberg and Domini 、(注6) Oekom : ドイツのOekom Research AG、(注7) SAM S. G : スイスのSAN Sustainability Group、 (注8) TM : Trademark、(注9) SRI : Socially Responsible Investment

図表1の機関のなかで、わが国の企業とかかわっている一部を紹介しますと、次のとおりです。

㋑「(b) Innovest社」の場合は、日本の数十社の企業が評価対象となっていて、鉄鋼部門では、NKKの評価が高いです。大和住銀系のエコファンド「ミセス・グリーン」のスクーリングにも採用されています。

㋺「(c) IRRC社」の場合は、 NTTデータ経営研究所と提携しています。

㋩「(d) CG社」の場合は、アマダ、富士機械製造、富士写真フィルム、富士通、山之内製薬の5社が、「Calvert World Values International Equity Fund」に選ばれています。

㋥「(F) Oekom社」の場合は、リコーやトヨタ自動車など37の企業が格付されています。

㋭「(g) SAM S. G社」の場合は、日興証券系のエコファンド「グローブ」に採用されています。

また、図表1をみると、国ごとに格付と評価の方法がほとんど違い、独自の方法で環境格付をしていることがわかります。図表1から、7つの環境格付機関の特徴を分類しますと、次のとおりです。

① 社会的責任投資に関する情報を提供する機関は、(c)です。
② 社会的責任の評価・格付する機関は、(a)、(e)、(f)です。
③ 環境リスクに対する環境経営力の格付を提供する機関は、(b)です。
④ 持続可能性による格付を提供する機関は、(g)です。
⑤ 格付を行わない機関は、(d)です。

この結果から、いずれも環境パフォーマンス評価よりも、企業の経営評価に重点が置かれていることがわかります。