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*)訳者注:「State False Claims Act(州虚偽請求法)」とは、米国の州政府に対する不正な請求(税金の搾取や詐欺行為など)を防止・処罰するための州レベルの法律。

増大する州政府による企業への制裁金

多くの企業は「金銭や財産と引き換えに行政当局に虚偽の請求を行った」という事案を聞いたことがあるはずだ。例えば、2025年8月、CVSはマサチューセッツ州のメディケイドプログラムに対し、一般市民と比較して過剰請求していたという疑惑を解決するため、1225万ドルを支払うことになった。また8月には、(州)政府はミネソタ州の不動産管理会社に対し、低所得世帯の家賃や光熱費を支援するためのCOVID-19(コロナ)時代の支援プログラムに関連して2021年と2022年に行われた陳述に対して、約80万ドルの損害賠償に加え、民事罰・諸経費を求めて訴訟を起こした。2025年7月には、ニューイングランドの建設会社3社が、空港改修プロジェクトに関連する虚偽請求の疑惑を解決するため、政府と300万ドル以上で和解した。

多くの人は、これらは連邦虚偽請求法(FCA)*1)に基づく訴訟だと推測するであろう。FCAは長年にわたり、建設業から医療に至るまでの業界を対象とする連邦政府の執行における強力なツールであり、過去40年間だけで780億ドル以上の賠償金と和解金を生み出してきた。こうした驚異的な回収額の根底には、多くの場合、「クイ・タム告発者」*2)と呼ばれる内部告発者によって最初に提起された訴訟がある。彼らは政府に代わって請求を提出し、最終的な和解金や賠償判決額の一部を受け取ることもできる。実際、昨年のFCAによる和解金と判決額29億ドルのうち、24億ドルはクイ・タム訴訟によるものであった。しかし、前節の事例はいずれも、連邦法ではなく州法の虚偽請求法に違反しており、これらの州法の多くはクイ・タム内部告発者条項も含んでいるが、これらの州法はしばしば見落とされている。

*1)訳者注:「連邦虚偽請求法(Federal False Claims Act: FCA)」とは、政府に対する不正な請求(詐欺行為)を防止し、国家予算を保護するための極めて強力な連邦法。不正が認められた場合、政府が被った実損害額の3倍の損害賠償(Treble Damages)に加えて、1件の虚偽請求ごとに数万ドルの民事制裁金が科せられる。

*2)訳者注:「クイ・タム(Qui Tam)規定」とは、不正を知った民間人(元従業員や競合他社など)が、政府に代わって「リレイター(Relater)」として提訴できるという条項。また、訴訟や和解によって政府が資金を回収できた場合、告発者には回収額の15%〜30%が報奨金として支払われる。

連邦FCAは、当然のことながら、請負業者・教育機関、および連邦政府の給付を受けるその他の企業から多くの注目を集めているが、州政府や地方機関と取引のある同様の企業や団体にとって、州のFCAがもたらすリスクは過小評価されている。たとえば、ニューヨーク州は2011年以降、州FCAの下で40億ドル以上を回収、カリフォルニア州は2000年以降、30億ドル以上を回収している。ミネソタ州は2010年以降、6000万ドルを回収している。厳しい州予算を補い、不正による損害を削減したいという思いから、全米の州議会は、連邦FCAより厳しく施行する州FCAを制定または拡大しており、州の司法長官と民間のクイ・タム告発者は、米国司法省と連邦告発者の成功に見習うべく、これらの州法の活用に新たに焦点を当てている。トランプ政権が政策の優先事項を実行するために連邦FCAを利用しているのと同様に、民主党と共和党のいづれの州司法長官も、政治的領域全体にわたって政策の優先事項を追求するために州のFCAを利用しているか、そうでなくともこれから利用する可能性が高い。

州政府と契約を結んだり、州の資金を受け取っている企業・機関・個人は、州の FCA 執行によって増大する責任について理解する必要があり、連邦レベルの法律と同様に、虚偽または不正な請求を主張する州の訴訟のリスクに備えるための手順を実施する必要がある。