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2004(平成16)年12月5日の早朝、東海地方や関東地方の沿岸部は南寄りの暴風に見舞われ、建物に多くの被害が発生したほか、交通機関などにも影響が生じた。この暴風をもたらしたのは、本州上を進んだ低気圧であった。日本付近で温帯低気圧は、南岸沖を進むものや、日本海を進むものが多く、それぞれ南岸低気圧、日本海低気圧という呼称がある。しかし、今回とりあげる低気圧は西日本から東日本の陸上を進むという異例のコースをたどった。コースだけを見ても普通ではないのだが、日本列島上で強い低気圧に発達したという点でも特異である。今回は、師走の日本列島に荒天をもたらした、この特異な低気圧に着目する。

時速88キロメートル

図1に、東海地方や関東地方で被害が発生する前々日から当日まで3面の地上天気図を掲げる。気象庁の解析によるもので、天気図時刻はいずれも午前9時である。ここでは、右端の5日9時の図から見ていただきたい。宮城県のすぐ東の海上に、中心気圧972ヘクトパスカルの発達した低気圧があり、まだ発達中である。この時刻には、東海地方や関東地方は低気圧の後面に入り、風はまだ強めだが天気はすでに回復している。

画像を拡大 図1. 2004年12月3日~5日の地上天気図(各日午前9時、気象庁の解析による)。大陸奥地のハッチ域は標高1000メートル以上、クロスハッチ域は標高3000メートル以上の高地を示す

次に、時間をさかのぼって、図1の真ん中の図(4日9時)に目を移すと、東シナ海に中心気圧1002ヘクトパスカルの低気圧がある。これが、右端の天気図で宮城県沖にある発達した低気圧の24時間前の姿なのである。あまりの違いに、読者は驚くであろうか。実際、これは驚くに値する。この24時間の中心気圧降下量は30ヘクトパスカルであり、俗に「爆弾低気圧」と呼ばれるものの中でも顕著な部類に属する。もう1つ驚くべきことは、24時間の移動距離である。この低気圧は、4日9時から5日9時までの24時間に、およそ2100キロメートル移動した。平均時速を求めると、約88キロメートル/時となる。これは、日本付近での温帯低気圧の平均的な移動速度のおよそ2倍の速さである。この事実も、この低気圧の特異性の1つである。

さらに、図1の左端の図(3日9時)に目を移してみる。上述した低気圧のルーツをどこに求めればよいであろうか。西方を探しても、それらしい姿は見当たらない。台湾の北から沖縄近海にかけて表示された前線が思わせぶりである。それより、読者は南シナ海の台風が気になるかもしれない。それは正解で、上述の低気圧は、3日9時に南シナ海に存在した台風第27号と大いに関係がある。ただし、この台風が温帯低気圧に変わって東海地方や関東地方を襲ったのではない。詳細は後で述べる。