2025/12/25
インタビュー
能登半島地震からまもなく2年 検証をどう生かす
金沢大学人間社会研究域地域創造学系准教授 青木賢人氏
「想定外」「準備不足」から脱せよ
青木賢人氏 あおき・たつと
金沢大学人間社会研究域地域創造学系准教授
1992 年東京学芸大学教育学部卒業、2000 年東京大学大学院理学系研究科地理学専攻修了。2002 年金沢大学着任。専門分野は自然地理学、地形学、地域防災。博士(理学)。石川県防災会議震災対策部会委員、石川県教育委員会学校防災アドバイザーなどを務める。能登半島地震金沢大学合同調査チームメンバー。石川県能登半島地震対策検証委員会委員。
能登半島地震からまもなく2年。各所で行われてきた災害対応の検証が終盤に入っている。浮上した課題を反映し、今年は災害関連の法律も大きく変わった。今後はこれらの内容をふまえた防災・BCP 体制の見直しが加速しそうだ。発災直後から被災地のフィールド調査に入り、石川県の初動対応を振り返る検証委員会のメンバーも務めた金沢大学准教授の青木賢人氏に、検証のポイントと防災・BCP 体制強化の方向を聞いた。
――石川県の「能登半島地震対策検証報告書」は、県の主体性の欠如と意識の甘さを厳しく指摘しています。真っ先に災害対応体制の不備をあげていますが、どのような課題が浮上したのですか?
今回の検証は、石川県が発災後おおむね3カ月間に行った初動対応業務が対象です。県職員や支援組織へのアンケートとヒアリングから、おっしゃるとおり、災害対策本部体制の不十分さと平時・緊急時の体制組み換えの難しさが浮き彫りになりました。
極端にいえば、日常の業務体制のまま各部局が危機対応をしようとした。なぜそうなったかというと、権限や人員、仕組みのうえで、各部局を横串につなぐ危機管理組織がなかったからです。危機管理室はありましたが、その下で全庁が動く体制になっていませんでした。
ゆえに情報を集約・分析し、部局間や関係機関で共有する機能が十分果たせなかった。参集した人員が業務を行うスペースも足りませんでした。もう少しスムーズな連携ができていれば、特に国や市町と連携ができていれば、もっと対応できることがあったのではないか。そこが大きな反省点です。
全庁対応が必要となるような大規模災害は、現実には稀です。しかしいったん起きれば、情報と権限を集約し組織に横串を入れる体制が必須となる。そのことがはっきり見えたともいえます。業務継続計画(BCP)も同様で、策定はしていましたが機能しませんでした。
なぜかというと、災害対策本部の立ち上げ条件を、本庁舎の被災に限定していたからです。本庁舎は機能していても県内のどこかが被害を受けて通常業務ができなくなるケースを考えていなかった。BCPは発動しなかったも同然です。
災害対応体制へ切り換えできずすべてが後手
石川県が設置した外部識者による第三者委員会は、能登半島地震発生から約3カ月の県の初動対応を検証。回答6000人に及ぶ県職員へのアンケートや支援団体102 機関へのアンケート、キーパーソン約200人へのヒアリングから53業務を洗い出し、それぞれの課題と改善の方向性を整理した。
検証報告書では、初動に必要な4つの活動とその実行に不可欠な3つの要素をポイントにあげている。真っ先に指摘したのが組織体制の不備だ。
●検証結果の7つのポイント
想定の不足と意識の欠如 BCPも機能せず
県は大規模災害時、被災の全体像を見渡して司令塔になるとともに、応援団体と被災市町をつなぐ調整役とならなければならない。それには全庁横断で動く必要があるが、平時の体制からの組み換えができず、結果、全国の応援職員や被災者支援NPO の受け入れが滞り、情報の共有も限定的で、十分な連携ができなかったとした。業務継続計画(BCP)も、発動条件が「本庁舎の被災」だったため、厳密には発動しなかった。そのため重要業務を重点化しリソースを集中させるといったセオリーも共有されず、対応要員の確保に苦慮し、職員間での業務負荷の偏りも発生したとする。報告書ではこれらを「意識の欠如」「受け身の対応」と断じた。
県の対応の遅れは、避難所環境の整備の遅れ、また高齢者など「災害弱者」への支援の遅れとなってあらわれた。孤立集落の多発、ライフライン長期途絶と相まって、大量の広域2次避難が発生。このことが被災者の所在の把握を難しくし、混乱を生んだほか、個々人への支援をより困難にしたとしている。
報告書では抽出した課題に対し、改善の方向性と具体策も提言。これを受けて県は、組織体制を変えるなど防災・BCP 体制の強化に向けて動き出している。検証結果は国や市町とも共有し、防災施策の推進や地域防災計画への反映に役立ててもらう考え。また、全国の自治体に活用してもらうため、全文をホームページで公開している。
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