災害ケースマネジメントを法制度化した自治体も

そんな災害ケースマネジメントを実際に実施している所もあります。鳥取県は、2012年2月、全国ではじめて災害ケースマネジメントを法制度化しました。

写真を拡大 出典:生活復興支援体制のイメージ(鳥取県) https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1127049/300511kaigisiryoukekka.pdf


 「よく眠れない」「飲酒、タバコの量が増えた」などという聞き取り調査は、り災証明の建物の損壊だけを見ているだけではわからない困りごとを拾ってくれるということですよね。心身のケアがなければ、家の修理もままなりませんから。

また、チーム内には、法律、福祉、お金、などさまざまな専門の方達がいて行政と連携して実施しているのがわかります。

宮城県の石巻市の一般社団法人「チーム王冠」の被災直後の支援活動が災害ケースマネジメントそのものであるという事で有名で、モデルケースになっています。現在にいたるまで、支援から抜け落ちている人たちに対し、個別に聞き取りをされ、弁護士会などとも連携をして、支援にあたっています。

■東日本大震災支援 一般社団法人「チーム王冠」
http://team-ohkan.net

写真を拡大 資料作成:公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構「人と防災未来センター」菅野 拓氏

また、仙台市の「被災者生活再建加速プログラム」も災害ケースマネジメントの草分け的な事例とされています。生活再建支援員に地元のシルバー人材を登用して、個別に被災者を訪問しました。相談内容に応じて、健康支援も含めた生活再建も支援したため、応急仮設住宅が2番目に多かったと言われた仙台市であったのに、発災後6年を前に仮設住宅から恒久住宅への住み替えを実現しました。この住み替えが1年遅れるだけで、1世帯あたり91万5千円、仮に千世帯が遅れると91億5千万の費用が余計にかかります。それに対し、5年間、生活再建事業として災害ケースマネジメントなどを実施してかかる費用は29億5千万円。

なんとなく、トップダウン決定の方が、復興が早そうに見えますが、じっくり個別の人にむきあって話し合った方が、被災者の満足度が高かっただけでなく、コストも少なく、経済的にも合理的であったことが報告されています。

写真を拡大 出典:「みなし仮設を主体とした仮設住宅供与お よび災害ケースマネジメントの意義と今後の論 点 ─ 東日本大震災の研究成果を応用した熊本市に おけるアクションリサーチを中心に」日本学術会議 /第 3 回防災学術連携シンポジウム論考集(菅野 拓)

他にも大船渡市の「大船渡市応急仮設支援委員会」、北上市「広域避難者支援連携会議」、名取市、岩泉市「岩泉よりそい・みらいネット 」、熊本市、益城町、南阿蘇村など、災害ケースマネジメントを取り入れたと言われる事例が増えてきています。

災害ケースマネジメント事例については、人と防災未来センター 主任研究員 菅野拓氏の下記論文がわかりやすいので、導入したい地域の方の参考になさってください!

■「借上げ仮設を主体とした仮設住宅供与 および災害ケースマネジメントの意義と論点 −東日本大震災の研究成果を応用した 熊本市におけるアクションリサーチを中心に−」 地域安全学会論文集No.312017.11(菅野 拓)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jisss/31/0/31_177/_pdf/-char/en

いかがでしたか?災害ケースマネジメントというものがあり、これからの問題解決の中心の議論になっていくかもしれない、そんな事を知っておいていただければ嬉しいです。あらかじめ、自分の街にこのような制度があるかないかによって、家の損壊というモノ基準の復興になるのか、それとも、ひとりひとりに寄り添った支援体制があるのか、ずいぶん違ってくるように思います。

また、今回は、り災証明一本主義と申請主義の弊害についてしか触れられませんでしたが、この他にも現物支給の弊害問題(cfバウチャーや現金を渡した方がよい場面でも冷えた同じ具のおむすびばかりを出してしまう問題)や「補正予算の成立までのタイムラグで、人的サービスが仮設入居まで間に合わず、災害のたびに場当たり的になる問題」など、災害救助法の問題点と災害ケースマネジメントで解決すべき問題は下記の図のように多岐にわたります。

写真を拡大 資料作成:公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構「人と防災未来センター」菅野 拓氏
写真を拡大 資料作成:公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構「人と防災未来センター」菅野 拓氏

もし、興味を持ってくださったら、こちらの本をおすすめします。今回、いろいろ教えてくださった津久井先生の著作「大災害と法」です。

「大災害と法」津久井進著(岩波新書)。アマゾンページはこちら

先日、長野県弁護士会で講演した際、津久井先生は「災害救助法の神」という称号で語られていました。神!って!すごいですね。というわけだからではないのですが、この本は、法を使ってどうやって災害に強く暮らしやすい社会にするか、制度の今後を見通せるので、わたし的にはバイブルと言える本です♪

そんな津久井先生からいただいた災害ケースマネジメントへの想いで今回の記事をしめたいと思います。

「災害ケースマネジメントは、一人ひとりのニーズと制度をマッチさせ、生活再建の営みに伴走する仕組みなんですが、突き詰めると、『その被災者をあなたと同じように大切にすること』であり、ヒューマニズムあふれる憲法的な解決策なのです。災害をきっかけに一人ひとりを大事にする社会にグレードアップすることを期待しています」

人に優しい災害復興にグレードアップしていきたいですね♪

(了)