東京労働安全衛生センター労働衛生コンサルタント 外山尚紀氏

アスベストは石なのに綿でもあり、ふわふわしていて大変興味深い面白い物質です。掘り出してきていろいろなものに混ぜると防火に優れ、強くなるなど、優れた特徴を示します。

20世紀を通じて全世界で使用されましたが、発がん物質のため、現在では先進国でほぼ禁止されていますが、まだアジアの多くの国では使われています。

アスベストはアスベスティフォームという形がポイントで、この形ががんを起こすと言われています。建材のスレート板の中にあるアスベスト、クリソタイルは非常に細い繊維のものです。

これがセメントとかみ合って強度を保っています。ものすごく細いので防じんマスクをしないと防げません。吸ってしまうとがんを起こすことがあり、被害が近年非常に広まってきています。

アスベストで起きる代表的な病気は肺がん、胸膜中皮腫、腹膜中皮腫、心膜中皮腫でいずれにしても悪性腫瘍で発症するとほとんどの患者は1、2年で亡くなってしまいます。2013年の中皮腫死亡者は1410人でした。

肺がんの原因では喫煙が多いので正確にアスベストで肺がんになっているのかわかりませんが、だいたい2000〜3000人くらいだと考えられています。合わせると3500人から4500人くらいの方が実はアスベストの病気で亡くなっているのが今の状況です。

アスベストが起こす病気の潜伏期間は非常に長いです。初めてアスベストを吸ってから40年くらい経って病気になる人もいます。世界では推定で20万人近い人がアスベストの病気で亡くなっています。

日本はアスベストを輸入して使ってきました。高度経済成長を迎え1960年代に急激に使用量と輸入量が増え1970年からだいたい1990年くらいまで、年間30万トンくらいのピークがずっと富士山型に20年間くらいかなり大量に使い続けていた時期があり、その後被害が広がったことから輸入量が減っていきました。

中皮腫という病気はアスベストでしかなりません。ですから中皮腫はアスベスト曝露の証拠になります。1960年代1970年代の影響が40年経って出てきています。つまり、今後も被害は増えます。

みなさんの記憶に残っているでしょうか。2005年6月29日に毎日新聞が大阪府尼崎にあるクボタの旧神崎工場の中で作業に従事した人がこの段階で51人亡くなっているとスクープしました。関西版の一面トップです。住民も周りに住んでいただけで病気になってしまう衝撃的なものでした。

クボタの神崎工場は何をしていたのかといえば、1960年代から中皮腫を起こしやすいクロシドライトという種類のアスベストを使って水道管を作っていました。当時インフラ整備をしなくてはいけないということで、こういう管が大量に作られていました。その影響だと言われています。クボタの工場は住宅地の真ん中にあったので被害が周辺住民にも広がってしまいました。

2005年11月に奈良県立医科大学の車谷先生が独自に調査をした結果、85人が中皮腫になっていました。これは異常な事態で、これだけの患者がクボタの周辺に集中していました。去年の段階でクボタに何らかの請求をしている人は298人いました。すごい数です。これは公害としか言いようがないような状況でありますし、この被害はまだ終わっていません。

厚生労働省の発表している労働災害で亡くなられた人を見ると昨年にようやく1000人以下の970人になりました。ですがこの中には実はアスベストの死亡者は入っていません。アスベストの労災認定数というのは2014年の段階で約900人。これらの人はほとんど亡くなっていますから、仕事での怪我で亡くなる方と同じくらいの方がアスベストの病気になっているのが日本の現実です。職業病の中でもナンバーワンで非常に強烈な物質だと言われています。これからも被害はずっと増え続けると考えられます。