イメージ(Shutterstock)

2013(平成25)年3月2日朝、北海道オホーツク海側の湧別(ゆうべつ)町は、前夜からの弱い雪が止み、穏やかに晴れていた。この日は土曜日とあって、外出する人も多かった。だが、この穏やかさをかき消すかのように、昼過ぎから暴風雪が襲ってきた。それは、猛吹雪に慣れているこの地方の人々でさえ難儀するほどの激しさであった。

この暴風雪の中、一人の男性の運転する車が、吹きだまりの雪山に突っ込んで動けなくなってしまった。運転していた男性は、近くの知人宅に避難しようと、同乗させていたひとり娘の小学生を連れて、暴風雪の中を歩き始めた。しかし、視界の全くきかない猛吹雪のため方向感覚を失い、知人宅にたどり着くことはできなかった。

翌朝、2人は農業用倉庫の前で雪に埋まっている姿で発見された。父親はすでに凍死していたが、ひとり娘は父親のふところに抱かれ、凍傷を負ってはいたが生還を遂げた。

この時の暴風雪は、北海道東部を中心に、北海道の全体を巻き込んだ。この暴風雪により、湧別町のほか、中標津(なかしべつ)町、網走市、北見市、富良野市で、合わせて9名の命が奪われた。本稿では、人命を奪う危険な暴風雪について述べる。

猛吹雪・地吹雪

3月の声を聞けば、春の遅い北海道のオホーツク海側でも、かすかに早春の兆しが感じられるようになる。しかし、海は依然として流氷に覆われており、季節はまだ冬だ。特に、発達した温帯低気圧が近づくと、猛吹雪に襲われる。その頻度は、真冬よりかえって多いくらいだ。

吹雪(ふぶき)とは、雪粒子が風によって流される現象である。気象庁は、風速10メートル/秒以上という条件を設けているようだが、風がそんなに強くなくても、一般の人は吹雪と感じているはずだ。実際、積雪があり、雪面が乾いていれば、風速が毎秒5メートル以上になると、雪面の雪粒子が移動を始める。地吹雪の始まりである。降雪現象と地吹雪が同時に起きれば、吹雪はもっと強く感じられる。

気象情報では、吹雪が特に強い場合に「猛吹雪」という表現が使われる。気象庁の定義は、風速15メートル/秒以上の吹雪である。しかし、吹雪の強さは、空中を移動する雪粒子の量によっても大きく異なると筆者は考えている。空中を移動する雪粒子の増加は、視程(してい)の低下に直結する。視程とは、見通せる水平距離のことである。風が強くても、ある程度見通しがきくならば、人々は猛吹雪とは感じないはずだ。

最近、猛吹雪の様子を表すのに「ホワイトアウト」という言葉が使われるが、それは上空が明るい時の話である。厚い雲に覆われ、降雪を伴う背の高い濃密な地吹雪に襲われると、何も見えなくなる。夜間はなおさらである。

見通しがきかないというのは、怖いものだ。自動車を運転していると、霧の場合にも怖さを感じるが、吹雪の中を運転するのは本当に怖い。道路の端がどこなのかがわからなくなる。また、何も見えない中から、前を走る車の赤いテールランプが急に現れたりする。吹雪の中でスピードを出すのは危険だが、スピードを落とすと前車との距離が開いて前車を見失い、また後続車に追いつかれて追突されるおそれがある。筆者は、吹雪に遭遇した時、前車のテールランプを見失わない程度の車間距離を維持して運転するようにしている。