「黄色いベスト運動」と呼ばれる労働者デモの様子。2018年12月1日、フランス東部ベルフォールにて(出典:flickr)

トーマツは2018年12月26日、「グローバルビジネス記者勉強会」を開催。ディレクターの茂木寿氏が、フランスの黄色ベストデモの拡大や、イギリスのEU離脱をめぐる混乱について、欧州各国の混乱が現地進出する日系企業に及ぼす影響を解説した。

デモ収束せず、改革に失速

フランスではマクロン政権の燃料税引き上げに端を発して2018年11月から大規模なデモ運動が起こり、全国に拡大している。

こうした事態を受けて、エマニュエル・マクロン大統領は同年12月5日に燃料税引き上げの中止を発表。さらに10日には新たな低所得者層への施策として(1)最低賃金を月100ユーロ(約1万3000円)引き上げ (2)残業手当を非課税化 (3)年末ボーナスを非課税化(および企業に支払いを要請)(4)支給額が少ない年金受給者に一般社会税の引き上げを廃止ーを打ち出した。デモは一時期と比べ勢いを弱めているものの、2018年末から今年1月以降も継続的に計画されており、「議会解散・総選挙」や「マクロン大統領の辞任」を求める活動にも広がりつつある。

茂木氏は日系企業へのリスクとして、「デモの暴徒化により企業支店などが襲撃され、従業員の安全や企業財産がき損すること」や、マクロン政権が新たに打ち出した施策による「最低賃金の引き上げやボーナス支給の手続きにかかる人件費など財務的負担が増加すること」を挙げた。

一方でマクロン政権がこれまで経済活性化のための労働市場改革や、「小さな政府」を目指した財政改革など大胆な改革を評価する企業もあることから、「マクロン大統領が辞任に追い込まれれば、改革の成果を期待する企業にとっては失望になる」とした。

Brexit、2度目の国民投票あるか

英国ではEU離脱の期限日3月末が迫っている。すでに2018年11月25日のEU首脳会議で英・EU間での離脱にあたっての条件をまとめた離脱協定案の合意に至っているが、英国内ではいまだ協定案について議会の賛否が分かれ、こう着状態にある。

英国が取り得る選択肢は3つ。「協定合意つきの離脱」「合意なしの離脱(ノー・ディール)」そして「EU残留」がある。

11日に迫る英議会下院で協定案が可決すれば、「協定合意つきの離脱」となり、2020年12月末までの移行期間を経て、合意協定を法制度化して2021年1月1日に離脱を迎える。ただし、現時点ではテリーザ・メイ首相が率いる与党・保守党のなかにも協定案に反対する議員が多数おり、採決か否決かの予測は難しい状況が続いている。

一方協定案が否決され「合意なしの離脱」となれば、英国は移行期間なくEUと関係のない第三国とになる。この場合、EU離脱期日の3月30日までに、英国と隣接するEU加盟国との国境管理や、輸出入品に対する関税や通関手続きが必要となる。その準備期間は2カ月余りと短い。茂木氏は「通関手続きの準備不足であらゆる品目の流通が1~2週間滞る可能性もある」と混乱を予想する。

こうした中で注目されているのは、議会審議の前後に「2度目の国民投票」を行うこと。この国民投票でEU残留の選択肢が示され、国民の支持が得られれば、前回の国民投票を覆し、英国がEUに残留するという、新たな道も開ける。

ただ茂木氏は「今後の見通しが不透明になるなかで、現地の日系企業は『合意なしの離脱』への対応に遅れを取っている傾向がある」と指摘。具体的な対応策として「輸出入にかかる関税賦課が企業グループに与える影響を考慮した緊急時対応計画の策定」や「現状のサプライチェーンの可視化や見直し」などを提案した。

また茂木氏は、フランス・マクロン大統領とともにEUのリーダーシップをとるドイツのアンゲラ・メルケル首相率いるドイツキリスト教民主同盟(CDU)が国内の州議会選挙で議席を落としているなかで、EUの弱体化を懸念。「5月に予定される欧州議会選挙で極右・ポピュリズム政党が議席を伸ばせば、EUの存在意義が問われかねない」とした。

(了)

リスク対策.com:峰田 慎二