重要なインフラへの最大の脅威

もちろん重大なインフラへの脅威は悪人だけではない。9.11の後、ニューヨーク市の災害専門家は人為的脅威のリスクに集中したが、ときどきは母なる自然は我々を自然災害の方へ引き戻した。これまでの20年間、ニューヨーク市は熱波、雪嵐、竜巻、ハリケーン、さらには地震をも含む自然災害の猛襲に耐えてきた。
ほとんどの巨大都市と同様にニューヨーク市は郊外や田舎の地域に比べて自然災害の数が多いし、その影響に関してもより脆弱である。中でも洪水、かんばつ、ハリケーンは最も破壊的な脅威である。気候変動が将来の大災害の影響を激化させるので、これはさらにひどくなるであろう。2017年にハリケーン・マリアに襲われたプエルトリコのように、自然災害は個々のシステムだけでなくその地域のインフラの全体を脅かす。

この本について

「私の仕事は、あなたが聞きたくないことを言うこと、いつか起きるだろうとは信じない、そんなことのために使うお金は持っていないというあなたに、お金を使うようお願いすることである」

     ―マイケル・D・セルブズ 国土保障・緊急事態管理部長
                  カンサス州ジョンソン郡

災害ビジネスにおいては、リスクは事故発生確率(頻度)とその結果(強度)の積に等しい。この本の前提は我々の超モダンの社会では、このリスク等式のどの変数もあなたが考えるより高いということである。
我々は連続して発生する自然災害と人為的災害の脅威の衝突針路に乗っている。これは厳しい現実であるが、今日では多くの人が前途にある何らかの災難の気配を感じている。大体の人はそれを否定することで何とかする。悪人あるいは母なる自然がどんな災いを投げかけてこようが我々は準備ができている。それを確実にするためにたくさんの人が報酬を得てそこにいる。そう信じることによって不安を和らげようとする人もいる。それは一面の真実である。全米の、ビジネス、産業界、政府の災害専門家は災害に備えて24時間仕事をしている。しかしとても十分な数とは言えない。そしてこの後見るように間違った仕事をしている人もいる。その結果は、我々は国としてはとても最悪のシナリオに対する備えがあるとは言えない、ということである。

この後のどの頁もその洞察を伝えるためのものである。あなたは大災害に対する準備はできていない。政府はできているだろうと思うかもしれないが、政府も大災害に対する準備はできていない。

この本は何故そうなのか、いかに我々はその窮地に陥ったのかを説明する。あなただけではなく誰もが大災害の脅威は否定するという論点から始める。“すべての災害の母”と言われる最悪のシナリオの物語が続く。今それが起きたらどのようなことになるかを描写する。さらに災害が作り出す“パラレルな宇宙”と、そこで災害専門家が効果的であるためには何が必要かを述べる。最後にあなたとあなたの家族が大災害に備えるためのシンプルなステップを提示する。

我々の集団的なレジリエンスの状態と政府は準備できていないというのは悪い話である。良い話も少しはある。ニューヨーク市をはじめとするいくつかの政府は優れたシステムを持っている。それは大災害の被災者を探索・救助する政府の対応を加速させるものであり、国と世界の範となるものである。

(続く)

翻訳:杉野文俊
この連載について http://www.risktaisaku.com/articles/-/15300