2016/05/13
スーパー豪雨にどう備える?

昨年9月、スイスの再保険会社「スイス・リー」は「自然災害で最も危険な都市ランキング」を発表。世界616都市を対象にした調査で被災者数を分析した結果、「東京・横浜」は第1位となってしまった。災害カテゴリー別に見ても「津波」で1位、「暴風雨」で2位、「高潮」で3位、「洪水」で6位と、世界で最も自然災害の影響を受けやすい都市の1つと言える。東京の水害リスクについて、元都庁職員で江戸川区の土木課長としてゼロメートル地帯の治水対策に当たった経歴を持つ、公益財団法人リバーフロント研究所理事の土屋信行氏は「東京は水害対策を実施してきているが、それ以上のスピードで人工集中や経済集中が起きているため、結果としてリスクとしては増大している」と危機感を募らせる。
編集部注:「リスク対策.com」本誌2014年9月25日号(Vol.45)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年5月16日)
2010年4月に出された中央防災会議「大規模水害対策に関する専門調査会」の報告書によると、利根川が広域氾濫し、首都圏に広域被害をもたらしたとする想定結果は、浸水面積530㎢、死者数2600人、孤立者数110万人。荒川右岸低地氾濫による被害想定は浸水面積110㎢、死者数2000人、孤立者数86万人。特に利根川の支流である江戸川と荒川に挟まれた江戸川区、葛飾区では浸水継続時間が14日以上になる可能性が指摘され、その被害は甚大だ。なぜ、これほどの水に弱い都市になってしまったのか。
土屋氏によると、そもそも東京は明治の産業革命以降、急激に人口が増加するとともに各種製造業が発展し、大量の水が必要になった。その水源として地下水を利用したが、同時に地盤沈下が加速度的に進行した。例えば江東区南砂では1918年から1943年までの25年間で、実に2.5mの沈下を観測したという。毎年10㎝地盤が下がったことになる。
浅い層の地下水を使い切るとさらに井戸を深く掘り、最後には地下500mまで掘り下げていった。さらに地盤沈下に追い打ちをかけたのが、水を掘っている間に発見した豊富なメタンガスの採掘だった。この天然ガスは地下水をくみ上げれば自然に分離して取り出すことができたので、江戸川区、江東区では大量のガス田が採掘されてしまった。メタンガスは東京だけでなく千葉県、埼玉県、茨城県、神奈川県と関東地方の広範囲で出ることから、「南関東ガス田」と呼ばれるようになった。その結果、1968年に江戸川区西葛西では1年間の沈下量が約24cmに達するという記録を観測。1967年にはくみ上げの地下水量が実に1日169万9000㎥にも上ったという。この事態は「建築物用地下水の採取の規制に関する法律」で工業用水の地下水くみ上げが全面禁止される1975年まで続いた(図1)。
これらの結果、墨田区、江東区、葛飾区、江戸川区で東京湾が干潮になっても水が引かないゼロメートル地帯が出現。その外側には満潮になると水没するゼロメートル地帯(足立区、荒川区、台東区)が加わり、さらに高潮被害が起こると水没する千代田区、中央区、港区、大田区、板橋区などが加わり、実に23区全体の面積の41%の面積が水害が発生しやすい地域になってしまったという。
スーパー豪雨にどう備える?の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方