訓練担当者の使命感が目覚めるとき
第4回最終回 ~仕方なくから、やりがいへ

八重澤 晴信
医療機器製造メーカーで39年の実務経験を持つ危機管理のプロフェッショナル。光学機器の製造から品質管理、開発技術を経て内部統制危機管理まで経営と現場の「翻訳者」として活躍。防災士として国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンDRR分科会幹事も務める。
2025/07/13
現場実務者が失敗と成功から紡いだ本物の危機対応
八重澤 晴信
医療機器製造メーカーで39年の実務経験を持つ危機管理のプロフェッショナル。光学機器の製造から品質管理、開発技術を経て内部統制危機管理まで経営と現場の「翻訳者」として活躍。防災士として国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンDRR分科会幹事も務める。
「どうせ誰も真剣にやらない」「評価もされない」でもそれでも続ける理由があるのです。
「4月から危機管理部門への異動です」 この言葉を聞いた瞬間、胃が重くなるような感覚を覚えました。なぜ、これまで携わってきた開発部門からこんな地味で評価されにくい部署に...。私だけではなく、あなたも似たような経験をしたことがあるのではないでしょうか?
私の机の引き出しの中には、今でも最初の訓練企画書の下書きが残っています。ボロボロになったその紙には、当時の私の不安と焦りが滲み出ています。「この訓練、誰も本気でやらないだろうな」と思いながら書いた企画書。案の定、初めての訓練当日、上司は棒読みでシナリオを読み上げ、参加者たちはスマホを見たり、あくびをしたりしていました。
「これが現実か...」 その夜、先輩と二人で会社に残って片付けをしながら、私は不満を漏らしました。「こんな仕事、誰かほかの人にやってもらえないだろうか...」と。素人だった私を一から指導してくれていた先輩は、私の小言も気にせず、黙々と次の訓練準備を進めていました。自分が四苦八苦している状態にもかかわらず、私の不満を受け止めながらも淡々と仕事を続ける先輩の姿勢。「こんな先輩になりたいな、いつか追いつき追い越したい」と思った瞬間でした。その思いが、最初の小さな「動機付け」になったのかもしれません。熊本地震の前のことです。
しかし、その後の熊本地震、大阪北部地震、北海道胆振東部地震、そしてCOVID19パンデミックという様々な危機対応を経験する中で、私の認識は根本から変わりました。 それは、大阪北部地震の時のことでした。東京から飛行機で現地入りした私を見て、現地の対応者がこう言ったのです。 「南海トラフ地震訓練で、いろんな問題を浮き彫りにしていましたが、まさか本当に被災現場に来てくれるとは思ってもみなかった。本当に心強いです」 その瞬間、これまでの訓練が単なる「形式」ではなく、実際の危機時の「信頼関係」を築く土台だったことを実感しました。訓練という仮想空間で築いた関係性が、リアルな危機対応において、初対面の緊張や遠慮を飛び越え、すぐに本質的な問題解決に取り組める関係になっていたのです。
第1回から第3回まで、訓練の「やり方」について様々な観点からお伝えしてきました。しかし、どんなに優れた手法や仕組みがあっても、それを推進する担当者の「心」が伴わなければ、真の備えは生まれません。 この最終回では、訓練担当者自身の「心の持ちよう」に焦点を当てます。「やらされ仕事」から「使命感」へ。その転換点と、持続させるための具体的なアプローチをお伝えします。 4月に危機管理部門に配属されたあなた。何年も訓練を担当し続け、時に燃え尽き感を覚えるベテランのあなた。共に、この仕事の中にある「やりがい」と「誇り」を再発見してみませんか? あなたが担当する訓練は、いつか誰かの命を救うだけでなく、危機発生時の「信頼の基盤」になるかもしれないのです。
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