2016/05/13
スーパー豪雨にどう備える?
教訓その2
災害発生時の利害関係者間の情報共有と意思決定力を高めるべき
ハリケーン・サンディがニューヨーク市を襲った2012年10月、世界最大の取引額を誇るニューヨーク証券取引所(NYCE)は2日間の市場閉鎖に踏み切った。一方、東日本大震災では、東京証券取引所は翌週の月曜日から売買を開始することを、発災当日の金曜日の段階で決定・告知した。結果として大きな混乱はなかったものの、その週末に発生した原発事故により、日本関連の株や債券の取引市場が大混乱する可能性も否定できなかった。
「日本でも、ハリケーン・サンディのような甚大な被害が想定される災害が迫り来る状況で、金融市場を能動的に事前に閉鎖することを検討しなければいけない時がくるかもしれない。その時の意思決定の仕組みを構築し、訓練を行うべきだ」と渡辺氏は指摘する。

米国証券業協会はハリケーン上陸にあたり、協会に所属する証券会社や取引所、決済機構、取引価格情報を配信している会社など、ピーク時にはおよそ400人に上る担当者を電話でつなぎ、電話会議を設定した。ハリケーンが上陸しても確実に業務を行えるか確認し、もし関係機関のいずれかの機能が低下して市場に混乱をきたすようであれば、あらかじめ市場を閉鎖することを検討しなくてはいけなかったためだ。例えばロイターやブルームバーグのような株式・証券などの金融商品の価格情報を提供する会社のシステムに障害が発生し、情報が入ってこなければ市場では取引が全く成立しない可能性もある。
しかし、渡辺氏によれば、金融市場はもともと「政府のものでも金融機関のものでも、また投資家のものでも誰のものでもない」という考え方が米国で根強いという。結局、市場の所有者が明確でないことによるイニシアチブの欠如により、閉鎖の決定は難航。決定したのは上陸予定前日夜のことだったという。最終的に利害関係者館で共有された市場閉鎖の理由は、公共交通機関が止まり、ニューヨーク市の広い範囲に避難勧告が出されたことによる「従業員の安全確保」だった。利害関係者との情報共有については迅速な対応を達成しながらも、市場閉鎖の最終的な意思決定に関しては米国ですら課題が残ったと言える。金融市場に限らず、利害関係者間の情報共有と、最終の意思決定は別物である。平時から利害関係者間の情報共有を図っておくとともに、緊急時には関係機関のトップが迅速に状況を見極め、お互いに協議しながら意思決定を下せるようにしておくことが求められる。
教訓その3
被災が予想される重要インフラのうち、社会的な影響が大きいものは、官民協働で対策を検討すべき
世界最大の金融街であるウォール街や、ニューヨーク証券取引所があるローウァー・マンハッタンの沿岸部には重要な変電設備があったため、設備が水没して大規模な停電が発生。アメリカ最大手の電話通信会社の通信タワーも水没し、通信障害も発生した。
なぜウォール街の近くに重要な変電所があったのか。それはその一帯が、昔は工業地帯だった名残だという。
変電所が浸水予想地域にあることはそれまでも分かっていたが、電力会社が移設についての経済的合理性を見出すことができず、そのまま放置され、稼動し続けていた。
「被災が想定される重要なインフラ施設に関し、災害時の都市機能継続を支えるなど公共性が高いものについては、たとえ民間会社のものであっても、政府が企業とコストをシェアするなど検討し、移設しておくべきだった」(渡辺氏)。
スーパー豪雨にどう備える?の他の記事
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方