2016/05/20
講演録
TIEMS日本支部第9回パブリックカンファレンス

危険物質から身を守る方法
株式会社日本防災デザインCEO 熊丸由布治氏
「771」。これは何の数字でしょうか? 答えは、2013年度中に発生した危険物災害・事故の件数です。単純計算では、1日に2件の危険物関連事故が皆さんの周りで発生しています。これらの事故により、火災による事故で10人が亡くなり、負傷者60人が発生。44億1150万円という被害額が出ています。最近の国内の事例で、特に私の印象に残ったのが、2012年9月に発生した日本触媒姫路製作所のアクリル酸タンクの爆発事故です。アクリル酸を貯蔵する中間タンクが爆発し、若い職員がお亡くなりになりました。そのほかにも大阪排油再生プラント火災(2013年)、三菱マテリアルズ四日市工場第1プラント爆発火災(2014年)、町田マグネシウム工場火災(2014年)、茨城県の中学校で理科実験中に硫化水素発生(2015)など、危険物事故は非常に身近で発生していることが分かります。中央労働災害防止協会安全衛生情報センターのWebサイトを見ると、危険物災害についてもっと知ることができます。
海外の事例を見ますと、2005年1月にサウスカロライナ州グラニヴィルで列車事故が発生し、60トンの塩素ガスが流出しました。9人が死亡し、250人が曝露。5400人が2週間避難し、除染作業に9日かかりました。オクラホマ州立大学が出版している「消防業務エッセンシャルズ」という消防の教科書の第24章に、この過去事例が掲載されており、この事故から2つの教訓があると示されています。まず1つ目は、第1対応者には適切な個人用保護具(PPE)の装着が重要であることと、2つ目に、統合指揮体制(UC)を早期に確立し、救助隊 、消防隊 、周辺区域 の安全確保、除染活動の調整などを実施するための多機関連携の重要性が訴えられています。
では、今われわれに必要なものは何でしょうか。それは「教育・訓練」です。防災に対するリテラシーが、まだ日本には不足していると考えています。これから、私が米国で受けてきた教育をお話したいと思います。
災害対応能力基準の標準化では、アメリカのNFPA(全米防火協会)という非営利団体が最先端の取り組みを行っています。このなかで、危険物・大量破壊兵器のレスポンダー(対応要員)としての能力的適正基準を明確に定めています。NFPAは単にハードウェアの基準・企画を定めているだけでなく、人間の能力基準まで定めているのです。米国では「NFPA472」という定められた教育を受けた人間以外は危険物災害やテロ対策に出動してはいけないとはっきり規定されています。それぞれ階層が分かれており、最も初歩レベルはアウェアネス・レベル。次の段階が運用レベルのオペレーション・レベル。その上がテクニシャン・レベルで、専門技術部隊のレベルです。その上が現場指揮官という階層に分かれており、インシデント対応教育のスタンダードとして完成しています。2008年のNFPAの改 定から 、アウェアネス・レベルを民間人にも啓もう活動を開始することを明記しました。すでにアメリカでは民間人に教育が始まっています。
さて、米国で定義されているハズマット(危険物質)とは何か。向こうでは危険物質と大量破壊兵器をおなじカテゴリーでとらえています。ハズマットはどのように引き起こされるかというと、「人的ミス・機械不具合・容器の不具合・輸送中の事故・破壊行為やテロリズム」のどれかにカテゴライズされます。この要因を1つひとつ潰してゆくのです。
さて、アウェアネス・レベルとは誰になるかということですが、これは第一発見者、第一現着者になります。例えば地下鉄サリン事件で言えば、乗り合わせた乗客、次は駅員と言う順番になりますが、そういう方々にアウェアネス・レベルの教育が必要になります。救護活動ももちろんですが、最も大事な部分は自分自身の防護活動を実践することなのです。
講演録の他の記事
おすすめ記事
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
-
-
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/08/19
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方