人はいくら情報を与えても関心がなければ反応しない(イメージ:写真AC)

嘘のリスクを高める無関心と感情論

前回のコラムにて、嘘は本来、義務教育レベルの日本語読解能力さえ発揮できればほとんどは騙されないが、それを妨げる二つの原因として、無関心やモチベーション不足によるものと、感情に訴えられて冷静さを失った結果によるものがあることを示した。今回はこの二つの原因ついて、少し突っ込んで語りたい。まずは無関心に関してだ。

皆さんは、養老孟司氏のベストセラー書籍『バカの壁』を覚えているだろうか。同書によると「話せばわかる」は嘘で、同じ入力情報を与えても、受け取る側の反応は天と地ほど違うものになるという。そのうえで、人に与えるインプット情報を「X」、関心度合いを係数「a」で表すと、その情報を得て反応するアウトプット「Y」は、下記の数式で表せるとした。

Y=aX

つまり、人は関心の高い内容の情報にはわずかな入力情報にも大きな反応を示すが、逆にどれほど大きな情報のインプットがあろうとも、関心がなければほとんど反応はない。

無関心は、個人の勝手では済ませられない(イメージ:写真AC)

無関心というものは、個人の勝手で済ませられない。社会にまん延する問題を野放しにし、企業・組織内の問題を見て見ぬふりしてしまい、結果として容認することにつながる要因となるからだ。無関心ゆえ、問題視するモチベーションも欠落していき、投げやりになり、嘘に対しても薄々気づきながらも嘘に流されてしまう。抗うこともせずに。

この公式自体、社会の問題の真相を突いているが、養老氏自身が想定していなかった領域にも一般論として拡張できることに、筆者は気付いた。仮説として示された公式は、実証と同時に、その拡張性を検証するのも科学の領域である。筆者的には当時、この関心の係数「a」を負の値に拡張した場合の想定に興味がそそられていた。

関心度合いをマイナスに拡張すると、反応は通常と正反対になる(イメージ:写真AC)

関心度合いがマイナスというのは、何らかの入力情報に対して、通常とはまったく反対のベクトルの反応が起きることを指す。つまり、嘘の情報に対しての反応は、嘘を積極的に肯定し、拡散する行動になる。逆に真実の情報には、嘘として否定するエネルギーが発信されるのである。

そんなことが本当に起きるのか、と疑問に思うかもしれないが、冷静に現実を見てほしい。少し考えれば嘘とわかることを堂々と、まことしやかに発信し続ける政治家や著名人、インフルエンサーが多いことに気付くのではないだろうか。

それはイデオロギーや思想信条の影響かもしれない。結論ありきで、後付けのこじつけがあからさまで、論理性の欠片も感じないような発言は、ある意味宗教的信念すら感じる。

この構造を認識し、問題から目を逸らさず、是々非々の論理的思考を怠らない以外に、嘘への対処法はないだろう。このことに関心すら持たなければ、自分自身も知らず知らずに嘘をついてしまう事態に陥りかねないのだ。