2016/05/12
【6月第1特集】 熊本地震の検証 6人の専門家に聞く“教訓をどう生かす?”
熊本地震 Photo Share 南阿蘇編

熊本を中心とする地震で犠牲になられた方のご冥福をお祈りするとともに、被害にあわれた方々に心からお見舞いを申し上げます。
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(本記事は、熊本地震 Photo Share 益城町編~レジリエンスな住宅は可能か?~から続きます)
益城町を取材したのち、記者らは南阿蘇村に向かって国道を東に移動した。車でおよそ1時間ほどの道のりだ。Wikipediaによると、南阿蘇村は平成の大合併後にできた初めての「村」。現在の人口はおよそ12000人で、隣接する高森町よりも人口が多いにもかかわらず「村」という名前を選択した。これは「自然の中のイメージを大切にするため」という話もあるほど、住民たちにとって阿蘇の自然は誇るべきものなのだ。実際に行ってみると、山麓の雄大な自然の中に瀟洒(しょうしゃ)なロッジやペンションをあちらこちらで見ることができる(写真を撮らなかったことが心底悔やまれる)。
その南阿蘇村を、地震とそれに続く土砂災害が襲った。なかでも4月16日の深夜1時25分に発生した最大震度6強の「本震」では、土砂崩れにより阿蘇大橋が崩落。村を東西に分断した。5月11日現在、同村の被害は死亡者15名、震災関連死1名、行方不明者1名と地元の熊本日日新聞が伝える。4月22日に記者会見した南阿蘇村の長野敏也村長は「元通りに戻るには10年以上かかる」「倒壊家屋は1000戸以上あるのでは」との見通しを示した。美しい村は、一夜にして「被災地」に変わり果ててしまった。
















南阿蘇では土砂災害について考えさせられた。取材中に現地のホテルで読んだ新聞に、次のような記載があったからだ。以下、記事から抜粋する。
(「想定外ですむのか」土砂崩れで娘失った母-4月30日付毎日新聞から)
土砂災害防止法とは、正確には「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」として2000年に制定された。1999年6月に広島県広島市から呉市にかけて発生した集中豪雨に土砂災害が発生し、24人が犠牲となったことの反省からできたものだ。そのため、現行の土砂災害防止法では地震動による土砂災害はほとんどと言っていいほど考慮されていない。その定義は同法で以下のように記されている。
この法律において「土砂災害」とは、急傾斜地の崩壊(傾斜度が三十度以上である土地が崩壊する自然現象をいう。)、土石流(山腹が崩壊して生じた土石等又は渓流の土石等が水と一体となって流下する自然現象をいう。第二十七条第二項及び第二十八条第一項において同じ。)若しくは地滑り(土地の一部が地下水等に起因して滑る自然現象又はこれに伴って移動する自然現象をいう。同項において同じ。)(以下「急傾斜地の崩壊等」と総称する。)又は河道閉塞による湛水(土石等が河道を閉塞したことによって水がたまる自然現象をいう。第七条第一項及び第二十八条第一項において同じ。)を発生原因として国民の生命又は身体に生ずる被害をいう。
参考までに、国土交通省ホームページに掲載されている以下の資料もご覧いただきたい。
土砂災害防止法の概要(国土交通省)
http://www.mlit.go.jp/river/sabo/sinpoupdf/gaiyou.pdf
しかし「土砂災害」という結果だけを見れば、その発生原因は水害であろうと地震であろうと被災者にとって違いはない。土砂崩れで子を失った親に「土砂災害警戒区域は地震を考慮していないので、地震で土砂災害が起きても責任は取れない」とは、誰の口からも言えるものではない。
一方で、全国治水砂防協会ホームページによると2015年9月30日時点で、全国の土砂災害警戒区域は40万6792カ所、特別警戒区域も24万7820カ所にのぼる。今後、自治体がこれ以上いたずらに「地震動を考慮した土砂災害危険区域」を増やしたとしても、根本的な問題解決になるとは考えにくい。
各都道府県における土砂災害警戒区域等の指定状況(全国治水砂防協会)
http://www.sabo.or.jp/topics/0005-0508/shitei-jyoukyou.htm
2005年6月20日に発生した新潟県柏崎市を震源とする最大震度5弱の地震では、前年に発生した中越地震の際に損傷を受けていた建物や緩んだ地盤が大きな被害を受けた。さらに6月28日には前日から降り続けた長雨の影響で、市内を流れる鯖石川や鵜川などの水が溢れ出し、住宅の床上浸水169件、床下浸水312件などの被害が発生。多くの場所で土砂崩れも発生した。火山と地震の関係はよく知られるが、ほかにも災害が長期にわたって複合的に発生した事例は、歴史をひも解けば枚挙にいとまがない。これから梅雨の長雨や台風のシーズンを迎える。被災された方々には現在、そこまで考える余裕はないと考えるので、今のうちから外部で支援している組織などが、なにがしかの対策を考える必要があるのではないか。
全ての災害は自然の循環のなかで発生し、私たちの暮らしに甚大な被害を及ぼす。通常であれば耐えられるはずの災害も、度重なることによって疲弊した地盤や構造物を打ち砕く。まず、私たちはその事実を冷静に知り、受け止めることから始めなければならない。阿蘇の雄大な自然を眺めながら、そう思った。
(撮影・文/大越 聡 機種/Canon EOS 80D)
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