牛型結核とはどのような病気か

牛型結核は、動物が罹患した場合、結核に似た症状が現れ、結核様の病変ができる慢性疾患です。結核との類症鑑別(識別)は容易ではありません。菌が感染してから発生までの潜伏期間は、数カ月から数年と結核よりも長いのが牛型結核の特徴です。動物が牛型結核に罹患していると診断された場合、治療はされず、殺処分されます。
牛型結核菌が、ある地域で生息して活動する多くの動物に感染して常在化すると、人への感染の機会も増加して重大な公衆衛生上の問題をその地域で引き起こしています。

人の牛型結核は、主として経口的な感染によるもので、呼吸器よりも消化器に病変の形成される例が多いのですが、臨床的にも、放射線医学的にも、さらには病理学的にも結核菌感染による結核と酷似しており、識別は甚だ困難です。患者から分離される菌の性状を調べ、鑑別する必要があります。治療には、通常、結核の場合と同じ薬剤が用いられます。

牛型結核菌が、現在、日本国内で人または動物から分離されることは稀(まれ)です。従って、牛型結核は国内の医療現場や畜産業界において大きな問題になっていません。しかし、目を国外に転ずると、前述したように、牛型結核は現在でも世界で広範に発生しており、注目されている疾病です。

動物間での牛型結核菌の感染経路

一般的には、死亡した動物で認められる病変の形成部位から伝播経路が推測できます。牛の症例で認められる病変の多くは、呼吸器とそれに付随するリンパ節に見られることが多く、気道感染が牛型結核菌の主要な感染経路のようです。実際には、野生動物の排泄物による牛型結核菌汚染水の小滴、牧草中に含まれる菌に汚染された塵(じん)粒子の吸入による空気感染が重要な感染源として考えられています。

牛型結核撲滅の困難性

牛型結核多発国での家畜の牛型結核菌感染防止は重要な課題となっています。そのためのプログラムは設定されていますが、難しい問題があるため、根本的な解決には時間がかかるようです。すなわち、さまざまな種類の野生動物が本菌の宿主になっていることです。野生動物の活動を人が制御することはできません。実際に、その野生動物から家畜への牛型結核菌の感染は起き続けており、人への感染も誘発しているのではないかと考えられています。

例えば、イギリスとアイルランドではアナグマ、ニュージーランドではフクロギツネ、アメリカではオジロジカのような野生動物が家畜への重要な感染源になっているという報告があります。

一方、南アフリカの国立公園では、水牛、クーズー(アフリカ大陸に生息するウシ科の動物)、ライオン、ヒヒ、レイヨウ(アフリカ大陸などに生息するウシ科の動物で、シカに類似)での動物種を超えた感染拡散が起きており、さまざまな動物種に著しい被害をもたらす結果となっています。さらにフランスでは、牛の牛型結核菌の集団感染が見つかった地域では、その地域に生息するシカが牛型結核菌を高率に保菌していることが確認されています。この事例では、野生動物(シカ)から牛群への広範な牛型結核菌の感染のあったことが疑われています。

地球上での人の生活圏の拡大が続いており、人や家畜が野生動物と接触する機会も以前に比べて増えています。その結果、野生動物の間でのみ成立していた病原体の感染サイクルの中に、人や家畜が巻き込まれてしまい、その病原体の感染を受けるというケースが、さらに増加していくと予測されます。特に、開発途上国で頻繁に起きているのではないかと懸念されています。どのようにしたら、有効な牛結核防疫対策方法を見つけることができるのか。今後に残された大きな課題です。