ツツガムシリケッチア(出典:ウィキメディア・コモンズ) https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Orientia_tsutsugamushi.JPG?uselang=ja

北海道から南西諸島まで、約18種類のマダニ刺咬による被害が国内で報告されています。北海道、本州ではシュルツエマダニ、東北、関東中部ではヤマトマダニ、南西諸島ではタカサゴキララマダニ、九州から近畿にかけてはフタトゲチマダニ、中国地方ではタネガタマダニが加害マダニとして知られています。

これまで2回にわたってウイルス病の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)病原体がマダニによって運ばれることを紹介しましたが、もう一つ警戒を要するダニの一種がツツガムシです。すなわち、ツツガムシ病の病原体を媒介するダニです。

ツツガムシ病とは

古くから「つつがなくお暮らしでしょうか」というあいさつがあります。これは(ツツガムシ病に罹らず)元気でやっておられますか、という意味です。ツツガムシ病に悩まされてきた国内の長い歴史があったために、このようなあいさつが普通に交わされてきたのです。

[図1]ツツガムシ(幼虫)体長0.3~0.7ミリメートル。うすい赤色 東京都資料

ツツガムシ病(つつが虫病、恙虫病)とは、Orientia tsutsugamushi と呼ばれる細菌(ツツガムシリケッチア)による感染病のことを指します。この病原体はダニの一種であるツツガムシによって運ばれ、汚染地域の草むらなどでツツガムシの幼虫(図1)に刺されることにより、人あるいは動物に感染します。

媒介者であるツツガムシは、北海道、沖縄を除く日本全国に広く生息しています。ツツガムシ幼虫の活動度が上がる時期は、地域の温度や降雪などの影響を受けます。そのため、地域によってツツガムシ病が発生する時期は異なります。

ただし、人の野外での活動が多くなる行楽シーズンに本病の流行が起きる傾向があります。また、国外からの観光客が日本国内に病原体を持ち込む、輸入感染症例も認められています。

[図2]ツツガムシ(幼虫)の刺し口 東京都資料

ツツガムシリケッチアを保有する有毒ツツガムシ幼虫に刺された部位の刺し口(図2)と、発熱、発疹(図3)が主な症状ですが、ときに播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation; DIC)を発症し、重篤化することがあります。DICとは、全身の血管の中で血栓(血の塊)ができやすくなったり、容易に出血したりする疾病のことです。

[図3]ツツガムシによる刺し口と発疹 広島県資料

全国で毎年400件前後の罹患例があると報告されています。国内で発病する事例の大部分は、国内で病原体に感染したと推定された事例です。しかし、国外(韓国、カンボジア、マレーシアほか)で感染した事例も少数ですが報告されています。毎年一定数の人が罹患する感染病であることから、現在でも注目されている疾病の一つです。

日本では、感染症新法で4類感染症に指定されています。診断した医師は保健所などに届け出る義務が課せられています。