西日本で鳥インフルエンザが発生

2020年12月8日現在、西日本各地の養鶏場がH5N8亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの侵入を受け、近年にない被害を断続的に被っています[図1]。さらに広い地域で多くの養鶏場が被害を受けることが心配されています。

実は10月下旬以降、北海道北部や韓国西海岸に近い地域で野鳥(多分渡り鳥)の糞からH5N8亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスが分離されていました[図2]。このことは、シベリアや中国東北部から朝鮮半島経由で越冬のために日本国内に飛来する渡り鳥の多くが、H5N8亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスにすでに感染しており、国内に持ち込んだ可能性が高いことを示しています。

今回の発生は、越冬に好都合なため池の多い瀬戸内海に面する香川県に、ウイルスに感染したカモ類などの群れが、韓国、九州経由で飛来したことが原因と推定されています。

さらに、香川県から遠くない兵庫県淡路島、奈良県の養鶏場が感染を受け被害が出ています。発生が起きた広島県も瀬戸内海に面しています。朝鮮半島から飛来した渡り鳥が最初に上陸した九州も、H5N8亜型ウイルスの侵入に晒されており、福岡県、宮崎県の養鶏場で発生が起きていますが、香川県に侵入したウイルスと同系統のウイルスの感染による被害と考えられます。

なお、12月10日に大分県、和歌山県の養鶏場でも高病原性鳥インフルエンザが発生したという速報が出ています。被害がさらに拡散しています。

シベリアや中国東北部から日本への主な渡り鳥の飛翔経路として①樺太、北海道を経由し南下②中国、朝鮮半島を経由し九州や中国地方へ③日本海を渡り直接北陸・山陰へ――という3つが知られています。今回発生している高病原性鳥インフルエンザの原因ウイルスの感染は②の飛翔経路をとった渡り鳥によるとみられています。

またH5N8亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスは、2014年以来、シベリア方面からの渡り鳥によって欧州やアジアへほとんど毎冬持ち込まれ、大きな被害を与えています。多くの渡り鳥の群れにすでにこのウイルスが定着している可能性もあります。

H5N8亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスは多くの渡り鳥の群れに定着している可能性がある(写真:写真AC)

ところで、筆者たちは約40年前からほぼ毎冬、島根県安来市郊外の能義平野や鳥取市郊外の日光池で渡り鳥の糞を定期的に採集して鳥インフルエンザウイルスの分離を行なっています。今年11月までの調査ではH5N8ウイルスは分離されていませんが、山陰地方は日本海に面しており、渡り鳥が多く飛来して越冬する地域です。私たちが実施してきた調査の重要性は高いと考えて調査を続けています。

これまでH5N8亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスは、鹿児島県出水市の水を張った水田(越冬する天然記念物のナベヅルのねぐらになっています。近隣に大養鶏地帯が存在します)の水や野鳥の糞から分離されており、新潟県でも同様です。一方、死亡野鳥からも和歌山県(オシドリ)や岡山県(ハヤブサ)で分離されています。

これからも、国内各地に生息する在来野鳥から鳥インフルエンザウイルスは分離され続け、養鶏場での鳥インフルエンザの発生が続くことが心配されます。