計画停電、 節電、 大停電を三位一体で対策

計画停電、節電、そして突然の大停電。それぞれ性質こそ違うが、 実は、 この3つを一体的に考えることが、有 効な停電対策を探る上での糸口になりそうだ。野村総合研究所上席システムコンサルタントの伊藤繁氏とシス テムマネジメント事業本部運用マネジメント部長の川口剛弘氏に、 企業が講じるべき停電対策について聞いた。

野村総合研究所の伊藤繁氏は、昨年の東日本大震 災後に、企業の BCP 担当者らを集めて計画停電や 節電への対策チエックリストをまとめた(32 ∼ 33 ページ) 。今夏の電力需給対策によれば、 東京、 東北、 沖縄電力を除く7電力管内では節電の数値目標を掲 げ、北海道、関西、四国、九州の4電力管内では計 画停電の可能性もある。伊藤氏は「 (こうした節電 や計画停電に対する)事前対策の有無で、 (不意の) 停電に対する対応もまったく変わってくる」と指摘 する。  

昨年の東京電力管内における計画停電の対象時間 は1回あたり3時間程度。これは、過去の停電事故 と比べてもかなり長い時間である。この3時間を確 実に対応できる体制を整えておけば、不意な停電に 対しても、ある程度の対策は講じられるはずという わけだ。  

伊藤氏は、計画停電にしても一般的な停電にしても、前提として、まず、停電における影響を想定することから、対策を講じることを提案する。  

例えば、オフィスに残っている社員の体調管理。 夏なら熱中症対策が必要だろうし、冬なら夜間の防 寒対策を考えておく必要がある。さらに、どの会社 でも共通した項目として、サーバーやデスクトップ PC のシャットダウン対策、電話や携帯電話の不通対策、電子錠や自動ドアの停止による「閉じ込め対 策」などを考慮する必要があると指摘する。  

特に通信の不通対策は見落としがちだ。2006 年 8月 14 日の東京大停電でも、オフィスの電話の多 くが使えなくなったことや、携帯電話ですらつなが りにくくなったことが報告されている。携帯電話に ついては、東日本大震災以降、基地局のバッテリー の 24 時間化対策なども進められているが、1∼3 時間のバッテリー容量しかない基地局が依然多い。  

これらの対策に加えて、ビルの管理会社とは、事 前に計画停電に対する方針を確認しておくべきだと する。 例えば停電期間中のテナントへの要請事項や、 セキュリティ対策、連絡手段、制限事項など。これ についても計画停電としての対策に限らず、不意の 停電時においても役立つことが期待される。  

さらに伊藤氏は、事前に実施すべき事項として、 計画停電による時間帯別の業務への影響の分析や、 対応方針の検討などを挙げる。  

停電対策を考える上での落とし穴として、勝手に 停電が起きる時間帯を想定してしまうことが挙げら れるが、計画停電としての対策なら、午前、午後、 夕方など、複数のタイミングに応じて、きめ細かな対策を考えることができる。もちろん、計画停電で も停止が許容されない業務については、自家発電装置の導入や、代替サイトで業務を継続させるなど対 策を講じておく必要がある。また、サプライチェー ン対策として、 重要業務に関わる取引先に対しても、 停電時の影響を確認し、停電発生時の連絡手段も合 わせて確認しておくべきだとする。 くどいようだが、 これについても不意の停電に役立つことは言うまで もない。  

これら事前対策を実施した上で、停電時には社内 外への周知と、情報の共有を徹底させることが大切 だとする。金融機関などの業種と取引がある場合、 細かな状況確認を求められる場合もあるので、停電 対策と同時に、リスクコミュニケーションの体制・ 手順も整えておく必要がある。

■節電対策が停電対策につながる !?
一方、節電のキーワードとして伊藤氏は、電気を 使用する面積の縮小、台数の縮小、量の縮小、時間 の短縮などを挙げる。例えば4フロア持っている企 業が、1フロアを使わないようにすれば、単純に計 算して電力は 25%減るし、PC の置換のタイミング で、可能な範囲でノート PC を導入することで、省 エネに加え停電対策も実現することができる。ある いは蛍光灯を LED に変えるなど電力消費量の少な い電気製品に変えることも有効な対策になる。  

ただし、この節電についても、停電対策と一体的 に考えることで、効率のよい計画作りが可能になる という。  

例えば、節電の方針に対するビル管理会社との事前確認は、停電対策にも適用できることが多いし、 従業員の安全・体調管理は停電でも節電時でも重要 な項目になる。また、停電時による業務への影響分 析や、停電時に止めることができない主要機器を明 確にしておくことは、他の災害対策を検討する上でも、組織内の共通認識を得るために役立つ。 伊藤氏は「停電対策は切り口として、何が止まって はいけないという洗い出しが重要になるのに対し、 節電対策は、国や、社会からの要請に対し、企業として、どこまで止めことができるかという視点が求 められるので、ある意味、セットで考えるのが合理的」とする。

■許容できるリスクを明確に
野村総研では、企業の事業継続には欠かすことが できないデータセンターを運用している。同社シス テムマネジメント事業本部運用マネジメント部長の 川口剛弘氏は「データセンターは、電気が命。電気 が止まったらデータセンターとしての意味がありま せんから、継続的な電力の供給を行うべく 2 重 3 重 の停電対策をしています」と語る。  

停電を感知したら UPS(無停電電源装置)が作 動し、同時に1秒も経たないうちに自家発電装置が 自動的に立ち上がる。そして停電が長期化するよう なら、 自家発電装置を電源とする運転に切り替わり、 すべての電力が継続的に供給される仕組みになって いる。実際、 昨年は首都圏にあるデータセンターが、 合計4回も計画停電の対象になったが、一度も問題は起きなかったという。  

ただし、現実問題として、自家発電装置にも自立 運転できる時間に限界はある。例えば、多摩に新設 のデータセンターなら連続3日間(72 時間)までは備蓄燃料によって自立運転ができるが、それ以上 については、燃料の補給が必要となり、継続的な電 力供給の保証は難しい。これは、燃料の調達の問題から、止むを得ない問題と川口氏は説明する。 それ以上の長期化に備え、石油会社とは燃料の優先 供給契約も交わしているが、東日本大震災のような 広域災害になれば、他のデータセンターや病院など も優先契約を交わしているため、確実な燃料の調達は非常に困難になる。  

川口氏は、ポイントとして「事前にどこまでのリスクを許容できるかを、しっかりお客様に対して説明、確認をしていただくことが大切です」と話す。 「それ以上のリスクにも、お客様が備えたいとなれば、別の DR サイトを用意してもらう、あるいは、 私どもも大阪に別のセンターがありますので、そち らを利用いただくなど、どこまで対策をする必要が あるかは、お客様の事業継続計画とそれにかけるコストの問題であり、あくまでお客様の判断になりま す」 (同) 。  

停電対策には当然ながら限界がある。しかし、特 に社会インフラの維持にかかわる企業については、許容できるリスクの範囲を明確にすることも、社会 全体の機能を考える上では、重要な要素になると言える。