2019/09/19
危機発生時における広報の鉄則
ダメージコントロールとしての記者会見とは
不祥事発生時には、責任を追及する質問は必ず付くものです。記者会見では質問のプロが多数集まりますから容赦ありません。「責任を取って辞任するお考えはないのですか?」「この責任をどう取るつもりなのですか?」「責任は取らないのですか?」「責任を感じていないのですか?」
普通のトーンなら、自分のペースで回答できることもありますが、質問者が語気を強めた言い方だと一瞬ひるんでしまったり、かえって感情的になってしまうこともあります。
メディアトレーニングの観点からすると、責任追及の質問には、「私は〇〇をして責任を果たします」と切り返すのが一般的です。7月31日に行われたかんぽ生命の不適切営業での記者会見でもこのやりとりがありました。顧客に不利益を与えた疑いのある契約が18万3000件あったとするひどい内容のもので、これまでも指摘されていたのに放置していた経営責任を問うきつい質問が何度もなされました。記者会見では、「職責をしっかり果たすことが経営責任の取り方だ」「調査結果が出てから」「陣頭指揮を執る」と一貫した主張でした。
このかんぽ生命の不適切営業の問題は、数の多さ、信頼の裏切り度合いからしても、歴史に残る責任が重い不祥事だと思いましたが、思ったほど大きく報道されていません。典型的なクライシスコミュニケーションの失敗である「対応が悪い」「起きたことに対する姿勢が悪い」といったスキがないからです。どこからどう質問が飛んでこようが、どんなに攻められようが、耐えきってぶれなかったからです。3時間にも及ぶ記者会見は、紛糾したものの悪くない会見だと思いました。その意味では、この記者会見はダメージコントロールとして機能していたといえるでしょう。
辞任のタイミング、仕方を考える
辞任は最も重い責任の取り方ではありますが、すぐに辞めればいいというものではありません。あまりにも早く辞めれば、「逃げた」とも受け取られます。多数の死傷者を出し、遺族に謝罪行脚しなければならない場合には、それをすることがまさに責任を取ることになるでしょう。第三者委員会の報告書では、経営責任が詳細に記載されますので、その結果を待って自らの責任の取り方について結論を出すというのも選択肢としてはあり得るでしょう。その意味では、辞任のタイミングというのは案外悩みどころではあります。日産の西川社長の記者会見でもタイミングについて質問が何度も飛び交いました。
辞任以外にも「降格」「報酬返上」という選択もあります。ところが、責任を取って社長から会長、あるいは相談役になる、というどこから見ても「昇格」にしか見えない責任の取り方を発表する会社があります。代表権がなくなるだけと会社を去るという意味の辞任では重さが異なります。辞任の仕方には経営者の責任をどうとらえているかの感性が表れるといえるでしょう。
では、日産の西川社長の辞任劇をどう見たらいいのでしょうか? 今回疑われた不正報酬は、疑われた金額だけ返上する、というのはあまりにも当たり前すぎるのです。記者からは「せこいのでは」といった質問も出てきてしまいます。記者会見では辞任のタイミングについて、質疑応答が何度も飛び交いました。ご本人が考えていたタイミングと現実は違ってしまったことへの悔しさがにじみ出ていたといえるでしょう。
形として事実上の解任となりますので、あまりよい形とは言えません。もっとスマートな責任の取り方があったのではないでしょうか? ゴーン氏を告発した時点で、例えば、体制を再構築するまで「無報酬」で働くという責任表明をすれば、ご自身の考えるタイミングまで務めることができた可能性はあります。私の愛車も日産です。当たり前ではない、もっと粋で重い責任の取り方をしてもらいたいものです。
(了)
- keyword
- 危機管理
- 広報
- クライシスコミュニケーション
- リスクマネジメント
危機発生時における広報の鉄則の他の記事
おすすめ記事
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/08/26
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
-
-
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方