2019/09/18
ロックフェラー財団100RCに見る街づくりのポイント
ヴァイレのレジリエント戦略
これらの課題を克服するため、ヴァイレのレジリエント戦略では次の4つの柱を掲げました。
【レジリエント戦略4つの柱】
① 協働(co-creation)が生まれる都市
② 気候変動に柔軟な都市
③ ソーシャルレジリエント都市
④ スマートな都市
①協働(co-creation)が生まれる都市
ヴァイレが最も力を入れているのが、域内外の公民セクターとのパートナーシップづくりです。これを協働(co-creation)と言っています。例えば、ウェルフェアラボラトリーを立ち上げて、施設に住んでいる障害のある市民と各分野のエキスパートの交流を促進しています。このような交流を通じて、彼らの抱える課題の解決に取り組んだり、レジリエンスアート祭を開催して、アートの力で市民参加を促すことなどをしています。
②気候変動に柔軟な都市
ヴァイレにとって歴史的に重要な水は、近年の気候変動により、災害のリスクを生み出す街のショック要因となっています。街にある通信インフラや電力供給システムは必ずしも全ての水害リスクに対して強固というわけではありません。しかしながらヴァイレでは、この状況を逆手に取って、街の発展を目指しています。水辺を再開発して人々が集まる場所を作りながら、水位のコントロールが可能な設備を備えることで水害のリスクを最小限に抑えようとしています。さらには二酸化炭素排出を減らすため、車の量を減らす取り組みをしています。具体的には、自動運転車の導入を計画しています。
③ソーシャルレジリエンス都市
ここでのソーシャルレジリエンスには、増え続ける移民との融合や、若い世代と社会とのつながりを強固にしたいという意味が込められています。「足りないものを補う」考えではなく、「共有可能なリソースを一緒に作っていく」ことを目指しています。ヴァイレでは、市役所などの公的セクターは行政サービスの提供者ではなく、さまざまな市民やコミュニティの“結合点”として機能するべきとの考えがあります。例えば、警察、学校、看護師、若手実業者や市役所のカウンセラーが共同で、犯罪撲滅のための教育プログラムを開発しています。
④スマートな都市
街で生まれたITベンチャーを中心とした、さまざまなサービスが展開されています。ヴァイレが目指すのは、レジリエントでスマートな都市です。デジタルインフラの整備に加え、データ利活用や新たなサービス展開に関する市民の信頼を醸成することを重視しています。地域の大学と協働で、新しい技術を用いたものづくり実験(ファブラボ)を行ったり、オープンデータ戦略を策定しています。
レジリエンスラボデンマーク
ヴァイレのレジリエント戦略では、上記の4つの柱の実現に向けたゴールやそれに付随するアクションが示されています。各アクションの記述と、誰がアクションを行うのか、どのようなタイムフレーム(短期/中期/長期)で行うのか、さらにはアクションによって生まれるレジリエンスにつながる価値の定義をしています。
アクションの中には、実際に「公民協働の場」を作り、実際に協働を実施しているものが多くあります。レジリエンス実現のために「レジリエンスラボデンマーク」というラボも設立しており、リビングラボ形式で、街を実験場として新しいアイデアやサービスを試しています。こういった協働を、街のレジリエンスを高める価値を生み出す源泉としてとらえているところが、100RCの中では比較的小規模な街であるヴァイレのレジリエンス戦略の特徴だと思います。

(了)
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