(写真:ロイター/アフロ)

翌朝

攻撃の翌朝早く、私はニューヨーク市保健局の環境衛生担当の副局長として、避難区域—いわゆる”レッドゾーン“—の6街区北にある東20丁目の警察アカデミーの2階図書館に設営された緊急事態オペレーションセンターの担当であった。

保健局の同僚の何人かは夜間にダウンタウンへ移動し、まだ現場にいた。彼らからの報告によって保健局は大きな現場で消火や瓦礫の掘り返しに従事しているファーストレスポンダーの人たちがさらされているハザードに焦点を当てることになった。

われわれは、作業前には作業者へのハザードを評価しなければならないというどんな職場にも当てはまる標準的なプロトコル(実施計画)のことは知っていた。それらのプロトコルによれば、ハザードが確認されたら、作業者には安全を確保するのに必要な装備と訓練が施される。それは標準的な実践である。不幸にも2001年9月12日のロウワーマンハッタンでは標準的な実践は問題外であった。

夜間私の上司であるベン・モジカ保健局副局長がグラウンド・ゼロの作業者にはN95防毒マスク(口と鼻を覆う密着型の顔面マスク)、ヘルメット、ネオプレン手袋、ゴーグル、安全靴を装備すべきであるとの安全勧告を発した。モジカが電話でその勧告を読み上げたとき私は当惑した。

「ベン、われわれはなぜこの勧告を出したのだ? ニューヨーク市消防局には自分たちの最高安全責任者がいるのに。われわれが消防士に安全靴を履けと指示する必要はないのではないか」

近くで仕事をしていた建設労働者からどこからともなく現れた民間人までダウンタウンではあらゆる種類の人たちが救助に当たっているとベンは説明した。

「誰がそれらの人々全てをコントロールしているのだ、消防か?」

「ニューヨーク市消防局の責任だ」とモジカは言った。「しかし今はひどい混乱状態だ」

私は電話を切って、机の上に洪水のように押し寄せる問題と向きあった。CDC(疾病管理予防センター)は薬と医療品の入ったプッシュ・パッケージ(応急小荷物)をケネディ空港に落としていた。われわれはそれをダウンタウンのワールドトレードセンターの現場に届ける作業をしていた。ネズミにかじられている救助作業者についての会話に引き込まれた。ダウンタウンへ行きたいという人たちからの問い合わせが殺到した。