長野市豊野地区の被災翌日の様子。自衛隊による救助活動が続けられた(10月14日、弊社社員撮影)

 

 

決壊場所近くは、水圧により家の1階部分がえぐり取られている(10月17日筆者撮影)
企業も被災店舗の復旧作業に追われていた(同)

千葉県を中心に甚大な被害を出した台風15号の風の威力への驚きが冷めやらぬ中で到来した台風19号。当初、多くの人が、東京あるいは台風15号により傷ついた千葉県への被害を懸念していたが、巨大台風は大量の雨をもたらし、長野、そして福島、宮城と全国各地に大きな爪痕を残した。

「災害は予想した通りには起きない――」。これまで幾度となく学んできたことのはずだが、予測に盲点があったことは否定できない。

それでも、危機管理の基本は、リスクを予測することである。どの程度の影響がどのくらいの確率で起き得るのかを予測し、その予測に対して、ハード・ソフト両面で予防をしていく。予防で防ぎきれなかったものには、最後、対応力でカバーする。これが危機管理のセオリーだ。

その意味でいえば東京は、国家百年の計として高度な予測に基づき、過去何十年にわたりハード面を強化してきたインフラにより大きな被害は免れた。多摩川の氾濫などにより一部で被害を受けたが、首都圏外郭放水路、神田川・環状7号線地下調整池をはじめ、さまざまな治水対策は機能した。しかし、それは今回の台風19号に対してであって、今後想定される1000年に一度の大雨や高潮にまで耐えられるということではない。

首都圏外郭放水路(出典:ウィキペディア/https://web.archive.org/web/20161020120920/http://www.panoramio.com/photo/62037005 AMANO Jun-ichi)

台風19号接近時の状況:第1立坑(撮影日時:10月12日 18時20分~18時30分)※8倍速(国土交通省関東地方整備局災害情報より)

今回、都内では1060カ所の避難所が開設され約8万人が避難した。避難者をそれ以上受け入れられない避難所も多数発生したが、その数は決して多いとは言えない。荒川や江戸川が決壊すれば、江東5区の9割に当たる250万人が浸水被害に遭い、その他の区や市町村でも大規模な被害が発生し、東京は長期間機能停止になる。たまたま避難しなくて助かった人も、それが正しい行動だとは決して思わないでほしい。江東5区では今回、広域避難の呼びかけを行わなかったが、いずれくるであろう1000年に一度の大規模災害時には、3日前からの避難準備と2日前の広域自主避難が求められる。

早めの広域避難を呼びかける江戸川区のハザードマップ。「最大規模」の水害が予想される場合は広域分散避難が求められる。

計画規模から最大規模に変わったハザードマップ

一方、大きな被害が出た長野や福島、宮城もこうした豪雨が予測できていなかったわけではない。台風19号がここまで被害をもたらすことはピンポイントで予想していなかったかもしれないが、ハザードマップを見れば分かるように、洪水被害は、多くの場合、精緻に予測されていた。

ただし、今回の洪水がハザードマップの通りに起きたという見解は間違いかもしれない。正確に言うなら、国交省のガイドラインに基づき改正された最新のハザードマップについては、想定範囲内に浸水が収まったのであって、ハザードマップ通りに被害が発生したわけではない。

平成27年の水防法改正により、国、都道府県または市町村は、想定し得る「最大規模」の降雨・高潮に対応した浸水想定を実施し、市町村はこれに応じた避難方法などを住民などに適切に周知するためにハザードマップを作成することが必要となった。浸水の高さや色などが見直されたが、最大のポイントは、それまで100年に一度程度の「計画規模」が、1000年に一度の「最大規模」になったことだ。

例えば長野市のハザードマップは、数年前まで浸水域が青色に示されていたのが、今では赤と紫色に塗り尽くされている。しかも、当時5メートル程度とされていた浸水高の場所は今では10メートル程度と倍の深さになっている部分もある。これを見る限り、今回の浸水は、今のハザードマップより改定前のものに近い。つまり、今回2階などへの垂直避難で助かったからといっても、それは計画規模での洪水で助かったに過ぎず、最大規模の浸水なら、屋根をすっぽり覆うぐらいになってもおかしくないということだ。