2016/11/10
昆正和の『これなら作れる! 緊急行動の成否を分けるERP策定講座』
■欧米人はITだけを守ればそれでよしと考えているわけではない
ところで、日本のBCPには緊急対応手順が"MUST"として認知されていない一方で、欧米の危機管理ではこのあたりがどのように扱われているのでしょうか。実態としての欧米のBCPはIT業務の継続が主な目的ですが、彼らはITだけを守ればそれでよしと考えているわけではありません。次のように、BCPの発動に先立って実行すべき、命と経営資源を守るためのいくつかのプランが別に確立しているのです(ここではラインナップの一つとしてERPにも言及しています)。
(1)コンティンジェンシー・プラン(Contingency Plan:CP)
かつて、米国由来のこのプランが大きくクローズアップされた時期がありましたが、舌をかむような名称であるためか、日本ではあまり普及しなかったようです。日本語では「緊急時対応計画」などと訳されています。情報システムのDR(ディザスターリカバリ)用語や、計画通りに危機に対処できなかった時に発動する事後対応プラン(いわゆるPlan B)という意味でも使われています。
(2)エマージェンシー・レスポンス・プラン(Emergency Response Plan:ERP)
文字通りの緊急対応の手順書です。言葉としてもストレートで分かりやすい。米国で提唱されているもので、どんな企業も幅広く適用できます。コンティンジェンシー・プランと同じように火災や地震など、災害別に策定するものです。緊急行動手順はこれらにまとめられているから、BCPではITのことだけを考えればよいのです。
(3)インシデント・マネジメント・プラン(Incident Management Plan:IMP)
イギリスの事業継続マネジメントに見られる用語で、危機の初動から運用を始めるという意味ではERPと同義ですが、ERPに比べると包括的な段階を含んでいます。つまりインシデントの発生からBCPの発動、そして事業が正常に回復するまでの管理活動の指針など、大企業、グローバル企業の上層部が運用するにふさわしい「マネジメント」的な意味合いの強いプランです。
この中から、筆者がエマージェンシー・レスポンス・プラン(ERP)を取り上げた理由は、言葉の定義が明快で、構成もシンプルで作りやすく、大企業から中小零細企業まで幅広く適用できる点にあります。
■ERPは単一のプランとして機能するのではない
これまで述べてきたERPの特長を振り返ると、そのコンパクトさと作りやすさが魅力ではあるのですが、何から何までERP1本で自給自足的に機能させるというわけにはいきません。ERPは、コンピュータプログラムに例えると用途別、目的別の"アプリケーションソフト"のようなものですが、これ以外にERPの前提、もしくは必要に応じてERPと連携させて使用する、汎用性を目的とした基本ツールが必要です。それが次の内容です。
-避難計画手順(これはERPの一つとみなすこともできる)
-非常時備蓄規定
-帰宅困難者対応手順
これらはBCPや防災計画を策定している会社にとってはすでにおなじみのものばかりです。少しも負担になることではないでしょう…。と言いたいところですが、インターネットからダウンロードして記入するBCPの「ひな型」の中には、これらに関する項目があいまいなものもあります。BCPのバランスを損なう一因となっているわけです。念には念を入れて、第3回目以降では、ERPの前提となる各ツールの作成ポイントについても言及する予定です。
(了)
昆正和の『これなら作れる! 緊急行動の成否を分けるERP策定講座』の他の記事
おすすめ記事
-
-
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/07/01
-
-
-
「ビジネスイネーブラー」へ進化するセキュリティ組織
昨年、累計出品数が40億を突破し、流通取引総額が1兆円を超えたフリマアプリ「メルカリ」。オンラインサービス上では日々膨大な数の取引が行われています。顧客の利便性や従業員の生産性を落とさず、安全と信頼を高めるセキュリティ戦略について、執行役員CISOの市原尚久氏に聞きました。
2025/06/29
-
-
-
柔軟性と合理性で守る職場ハイブリッド勤務時代の“リアル”な改善
比較サイトの先駆けである「価格.com」やユーザー評価を重視した飲食店検索サイトの「食べログ」を運営し、現在は20を超えるサービスを提供するカカクコム(東京都渋谷区、村上敦浩代表取締役社長)。同社は新型コロナウイルス流行による出社率の低下をきっかけに、発災時に機能する防災体制に向けて改善に取り組んだ。誰が出社しているかわからない状況に対応するため、柔軟な組織づくりやマルチタスク化によるリスク分散など効果を重視した防災対策を進めている。
2025/06/20
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方