2016/12/14
リオ五輪から学ぶ 日本の危機管理を高めるヒント
特集 1 視察記 ①
一方で国内の情勢に目を向けると、ブラジルでは、当時のルセフ大統領がオリンピックとパラリンピック開催期間の狭間である8月31日に弾劾裁判を経て罷免される事態が起きていました。そんな中、大会開催に支障をきたす混乱や、指揮命令系統の乱れがあったのではないかと疑問に感じていました。
さらに、リオは海、山、川などの壮大な大自然が絡み合い、天候は目まぐるしく変わり、自然災害も多い特異な場所です。人口は630万人の大都市で、交通渋滞も激しく、人口の4分の1にあたる約150万人はファベーラと呼ばれる貧民街に居住しています。こうしたリスクが山積した環境での五輪開催でした。
今回、元陸軍幹部の上院議員や連邦警察幹部、リオ2016組織委員会テクノロジー局の責任者、リオ市の危機管理を統括するオペレーション・センターのセンター長などさまざまな立場の方々から話を聞くことができました。
総じて言えるのは、大会開催期間中に大きな混乱となる事態は発生しなったということです。ブラジルには、軍や軍警察、連邦警察、州警察、市警察など危機対応に関連する多くの組織があります。しかし、大きな事案になれば、軍や連邦警察が中心となってリーダーシップをとるそうです。それはある意味で信頼にも感じられました。
ロンドンでも、警察や危機管理担当部局が広範囲かつ同時多発的に起きる事案を想定した合同訓練を大会の2年ほど前から何度も繰り返すことで実践的に連携が取れる対応力を備えていったという話を聞きましたが、ブラジルでは平時から、犯罪への対応、抗議デモへの対応などが連携して行われ、こうした信頼関係のもとで危機対応をし続けているからこそ、習熟した対応が可能になっているのかもしれません。リオ大会についても、結果論ではありますが、できる限り現実的な対応で危機管理を実践したと言えるでしょう。
ロンドン・リオから学ぶ日本の取るべき道
さて2020年、東京大会に関連する各組織や、その他一般の企業にとって、これから危機管理やリスクマネジメントに関してどんなポイントについて考えていくべきなのでしょうか?
リオも、リスクマネジメントについては4年前から具体的な取り組みを始めたといいます。ただし、4年前の段階だと、組織委員会の体制や役割、システムなどあらゆることがまだ固まっていませんでした。その段階で、できることから始め、具体化してくる状況に応じてリスクマネジメントのやり方も変えながら進めていきました。
そこで、ロンドンやリオの状況も参考にしながら、日本においての懸念を以下3点示し考えていきたいと思います。

1.網羅性を求めるリスクアセスメントおよびリスクシナリオ
いざ取り掛かると日本人は大変緻密な民族です。完璧なリスクアセスメントの表を作成することが目的となり、精緻な表が完成します。また、洗い出したリスクからどんなシナリオが起きるのかについてもできる限り多くの細かいシナリオを洗い出し始めます。
しかしながら、これらは目的ではありません。認識しなければならないのは、いくら細かく無数のシナリオを作成しても、その通りの事象は起きないということです。海外で行われるリスクアセスメントは、原因が何であれ、いくつかの看過できない事象、例えば、施設が使えない、スタッフが来ない、システムが使えない、などのシナリオに絞って用意し、それに対しての基本的な方針、戦略を用意しておくことに重点を当てることが多く、このことは日本でも参考にできるでしょう。
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