アメリカ政府・民間企業、イギリス業界団体など

サプライチェーン・リスクマネジメント(以下、SCRM)の高まりは日本だけではない。欧米の動きをまとめた。

■国家戦略としての SCRM
世界最大の貿易大国アメリカにとって、経済のグローバル化によるサプライチェーンの拡大は、国内経済の成長の原動力 とな る。 しかし近年、世界各地で相次いで発生している自然災害や政治暴動などの脅威は、サプライチェーンを寸断し、アメリカ経済に大きな打撃を与えている。  

こうしたことから、アメリカ政府は、2012 年1月に「National Strategy for Global Supply Chain Security( グ ロ ー バ ル・ サプライチェーンの安全における国家戦略 )」 を発 表。 この文書の中で、 大きく2つの目標を挙げた。  

1つは、流通とコストの効率性の 促進と安定した生産性の強化を両立 したサプライチェーンの実現。もう1つは、複雑化する災害に対して、準備体制を整えることだ。  

前者については、早い段階で脅威 を特定できるようにすることで、輸 送インフラと情報インフラの安全性 を強化する。後者については、被災した市場の活力を元に戻す計画を策 定することで、被災しても早急に復 旧できるシステムをつくる。

■民間組織を中心にプロセスの共通化  

SCRM への関心はアメリカの民間企業や組織の間でも高まっている。P&G、ボ ー イ ン グ、 シスコ、 FedExなどアメリカを代表する製造業、サービス業、物流企業が集まって設立した SCRLC(Supply Chain Risk Leadership Council) は、アメリカ国内における、産業全体のサプライチェーンのリスク管理に対する意識を高め、より強固で安定したサプライチェーンを実現させることを目的としている。2006 年の設立当初は6社で構成していたが、現在ではチューリッヒ生命やミシガン大学など、製造業や流通業だ けでなく様々な業種が加わり、20もの組織から成る。

SCRLCでは、リスクマネジメントの国際標準のガイドラインである ISO31000 のリスクマネジメン ト・プロセスを基に、業種を超えた 共通のプロセスの基準を設けること で、SCRM のベストプラクティス を策定している。具体的には、組織 の内部・外部環境の分析方法から、 リスク特定・分析・評価を行うリスクアセスメントの方法、リスクの対 処法までの一連のプロセスについて定期的にレポートにまとめて発表し ている。レポートの巻末には、サプ ライチェーンのリスクの管理条項の サンプルやサプライヤーのリスク管 理のための質問項目などがまとめら れ、実用的なものとなっている。  

SCRLC のほかにも、世界最大の サプライチェーン・マネジメントの団体である ISM(サプライマネジメント協会) では、 今年7月にシカゴで開催された年 次 大 会 で、 サプライチェーンのリスク管理をテーマに、GM やウォルマートなどのSCRM の取り組みを紹介。SCRM について、物流、調達などサプライチェーンに関わる業界全体で関心が 高まっている。

■英国では SCRM のガイダンスが発行
BCP(事業継続計画) の発祥の 地とも言われるイギリスでは、事業 継続マネジメント規格 BS25999 などを発行する英国規格協会 (BSI) が、有事におけるサプ ライチェーンの継続を目的としたガイダンス 「PD25222」 を2011 年12月末に発表した。  

PD25222 は、グローバル化や IT 技術、物流などの発展により、 複雑化と拡大化しがちなサプライチェーンを、 コスト管理と物流効率の視点から見直し可視化することで、有事の時にもすぐに対応ができ るようなサプライチェーン継続マネジメント(SCCM:Supply Chain Continuity Management)として運用できる。  

具体的なコンテンツとしては、サプライチェーンの継続の重要性や、 クリティカル・サプライヤーの把握 に加え、BCM のライフサイクルについても言及されている。