2012/09/25
誌面情報 vol33
アメリカ政府・民間企業、イギリス業界団体など
サプライチェーン・リスクマネジメント(以下、SCRM)の高まりは日本だけではない。欧米の動きをまとめた。
■国家戦略としての SCRM
世界最大の貿易大国アメリカにとって、経済のグローバル化によるサプライチェーンの拡大は、国内経済の成長の原動力 とな る。 しかし近年、世界各地で相次いで発生している自然災害や政治暴動などの脅威は、サプライチェーンを寸断し、アメリカ経済に大きな打撃を与えている。
こうしたことから、アメリカ政府は、2012 年1月に「National Strategy for Global Supply Chain Security( グ ロ ー バ ル・ サプライチェーンの安全における国家戦略 )」 を発 表。 この文書の中で、 大きく2つの目標を挙げた。
1つは、流通とコストの効率性の 促進と安定した生産性の強化を両立 したサプライチェーンの実現。もう1つは、複雑化する災害に対して、準備体制を整えることだ。
前者については、早い段階で脅威 を特定できるようにすることで、輸 送インフラと情報インフラの安全性 を強化する。後者については、被災した市場の活力を元に戻す計画を策 定することで、被災しても早急に復 旧できるシステムをつくる。
■民間組織を中心にプロセスの共通化
SCRM への関心はアメリカの民間企業や組織の間でも高まっている。P&G、ボ ー イ ン グ、 シスコ、 FedExなどアメリカを代表する製造業、サービス業、物流企業が集まって設立した SCRLC(Supply Chain Risk Leadership Council) は、アメリカ国内における、産業全体のサプライチェーンのリスク管理に対する意識を高め、より強固で安定したサプライチェーンを実現させることを目的としている。2006 年の設立当初は6社で構成していたが、現在ではチューリッヒ生命やミシガン大学など、製造業や流通業だ けでなく様々な業種が加わり、20もの組織から成る。
SCRLCでは、リスクマネジメントの国際標準のガイドラインである ISO31000 のリスクマネジメン ト・プロセスを基に、業種を超えた 共通のプロセスの基準を設けること で、SCRM のベストプラクティス を策定している。具体的には、組織 の内部・外部環境の分析方法から、 リスク特定・分析・評価を行うリスクアセスメントの方法、リスクの対 処法までの一連のプロセスについて定期的にレポートにまとめて発表し ている。レポートの巻末には、サプ ライチェーンのリスクの管理条項の サンプルやサプライヤーのリスク管 理のための質問項目などがまとめら れ、実用的なものとなっている。
SCRLC のほかにも、世界最大の サプライチェーン・マネジメントの団体である ISM(サプライマネジメント協会) では、 今年7月にシカゴで開催された年 次 大 会 で、 サプライチェーンのリスク管理をテーマに、GM やウォルマートなどのSCRM の取り組みを紹介。SCRM について、物流、調達などサプライチェーンに関わる業界全体で関心が 高まっている。
■英国では SCRM のガイダンスが発行
BCP(事業継続計画) の発祥の 地とも言われるイギリスでは、事業 継続マネジメント規格 BS25999 などを発行する英国規格協会 (BSI) が、有事におけるサプ ライチェーンの継続を目的としたガイダンス 「PD25222」 を2011 年12月末に発表した。
PD25222 は、グローバル化や IT 技術、物流などの発展により、 複雑化と拡大化しがちなサプライチェーンを、 コスト管理と物流効率の視点から見直し可視化することで、有事の時にもすぐに対応ができ るようなサプライチェーン継続マネジメント(SCCM:Supply Chain Continuity Management)として運用できる。
具体的なコンテンツとしては、サプライチェーンの継続の重要性や、 クリティカル・サプライヤーの把握 に加え、BCM のライフサイクルについても言及されている。
誌面情報 vol33の他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
-
民間企業の強みを発揮し3日でアプリ開発
1月7日、SAPジャパンに能登半島地震の災害支援の依頼が届いた。石川県庁が避難所の状況を把握するため、最前線で活動していた自衛隊やDMAT(災害派遣医療チーム)の持つ避難所データを統合する依頼だった。状況が切迫するなか、同社は3日でアプリケーションを開発した。
2024/04/11
-
-
組織ごとにバラバラなフォーマットを統一
1月3日、サイボウズの災害支援チームリーダーである柴田哲史氏のもとに、内閣府特命担当の自見英子大臣から連絡が入った。能登半島地震で被害を受けた石川県庁へのIT支援要請だった。同社は自衛隊が集めた孤立集落や避難所の情報を集約・整理し、効率的な物資輸送をサポートするシステムを提供。避難者を支援する介護支援者の管理にも力を貸した。
2024/04/10
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月9日配信アーカイブ】
【4月9日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:安全配慮義務
2024/04/09
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方