2012/09/25
誌面情報 vol33
日常のリスク管理で災害に対応
日本ヒューレット・パッカード
PC やストレージをはじめとした IT 機器の世界的メーカーであるヒューレット・パッカード(HP)は、サ プライチェーン戦略の1つとして「調達危機管理」プログラムを策定し、 品質管理やコスト管理など、 グロー バルな規模でビジネスを展開しながらも安定した生産と流通を実現している。昨年の東日本大震災やタイの 洪水では、事業継続の観点からもその有効性が証明された。
■経営戦略としての SCM
HP は、世界 170 カ国以上でビジネスを展開し ている。同社のビジネスは主に3つの事業から成り立っている。1つはパソコンとプリンターを担 う PC &プリンター事業、もう1つは、企業のサー バやスーパーコンピュータの提供を手掛けるエンタープライズインフラ事業、3つ目は IT コンサル ティングを担うサービス事業。
この3つの事業から毎年、何百もの新製品・サービスを販売し、その多くが世界各地でトップシェアを誇っている。
製品群が多岐にわたる上にライフサイクルが短い同社のビジネスは、世界中に散らばる何百もの部材 サプライヤー、物流業者、倉庫業者らによって支え られている。こうした背景から同社ではコストと流 通の効率化に重点を置いたサプライチェーン・マネ ジメント(SCM)を経営戦略の1つとして力を入れてきた。
■調達危機管理プログラム
「サプライチェーン戦略は、世界全体が網の目のように、切れ目なくつながるネットワークとなるこ とを目指している」と日本ヒューレット・パッカード株式会社 EG サプライチェーン本部本部長の宮田 直美氏は話す。世界中に散らばる支社、サプライ ヤー、物流会社などが、地球を網の目で包むようにして連携することで、世界各地で同じ品質の製品を 安定して供給できるようにする。
米国 HP の調達リスクの担当者のレポートによれば、現在の HP のサプライチェーンの仕組みが完成 したのは、 2000 年に遡る。HP では、 これまでグロー バルにビジネスを展開する中で、為替の変動による 価格の高騰や希少部材の不足など、様々なリスクに直面してきた。その過程において、常に業務の効率化と危機管理のバランスをとりながら、SCM の構築に取り組んできた。
例えば、1999 年には、プリンター用フラッシュ メモリーが不足し、同社のサプライチェーン全体が 打撃を受けた。急激な携帯電話の普及によりフラッ シュメモリーの需要が増加したことで、HP の主力 製品であるプリンター事業用のメモリーが不足。追 い打ちをかけるように価格が急騰する事態にまで巻 き込まれた。これを機に、では、 HP サプライチェーンの大きな見直しを始め、翌年の 2000 年に「調達 危 機 管 理(Procurement Risk Management)と 」 いうプログラムを策定した。いつまでにどれくらい 販売するか、販売計画と資材管理を可視化し、さらに需要を常に予測することで仕入れ条件を見直すな ど、問題が発生した時にも直ぐに対応できるように マネジメント手法を決めている。具体的には、需要 を、 必ず売れるだろう最低ライン(ローシナリオ) と、通常時 (ベースシナリオ)最大限にヒットした時 、(ハイシナリオ)の3パターンに分け、仕入れ価格や買 い取り条件を決めて業者と契約する。例えば、最低ラインについては、下請けに必ず買い取ることを約 束する代わりに低価格で提供してもらう。一方、高 い需要が見込めるものについては、買い取りの保証 をしない代わりに、製造の能力を補完してもらうた め、プラスの金額を支払う。
こうすることで、希少部材についても、需要予測 に沿ってあらかじめサプライヤーと交渉することで 生産量を増やす、備蓄をしてもらうなど、事前対策 を施すことができる。また、予測よりも売れ行きが 不調な製品があれば、製品の生産を止め、チェーン 上にある残りの部材を他の製品に振り向けることで、在庫の保管コストや返品コストを食い止めることができる。
この考え方は、 災害対応にも生かすことができる。 被災により、ある部品供給が止まっても、需要予測 を基に優先業務を決め、チェーン上にある残りの部 材を売れ行きの良い他の製品に振り向けることによ り事業継続を実現できる可能性が高くなるからだ。
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