2012/11/25
誌面情報 vol34
震災経験者ほど準備万全
非常食の備えを増やし、車のガソリンはなるべく満タンにしておいて、いざという時には自分で判断して行動する―。東日本大震災を経て、災害に対する意識が高まっていることが、ウェザーニュースが一般市民を対象に実施したアンケート調査で改めてわかった。
同調査によると災害への備えのために非常食(水だけという人も含め)を用意している人は全体の8割となり、震災前の2010年調査よりも約2割増加、その備蓄量も平均3.2日分と増加した。
一方で、半数近い人が家や家具の震災対策を実施していない実態も浮き彫りとなった。調査は東日本大震災から1年半が経過した今年8月から9月にかけて(8/18∼9/5)スマートフォンのアプリ「ウェザーニュースタッチ」や携帯電話のサイトを通じて実施したもので1万9628人(男性47%、女性53%)の有効回答を得ている。ウェザーニュースは2010年にも同様の調査を実施しており、今回の結果との比較によって東日本大震災経験後の人々の意識の変化を見ることができる。
■非常食を用意しているか
「非常食を準備しているか」との質問の回答は「水+食料」が52%と半数を超えた。「水のみ」(16%)と「食料のみ」(10%)も合わせると全体の78%が何らかの非常食を用意している一方で「用意していない」という人も2割いた(グラフ1)。しかし2010年調査との比較では非常食の準備ができている割合は約20%増加。震災を経験し災害に対する意識は確実に高まったようだ。
非常食を準備している割合を災害経験別にみると「被災して被害が長期に出た」など、長引く被害を経験した人ほど、準備を万全にしている傾向にあることが分かった(グラフ2)。
その備蓄量については「約3日分」準備している人が42%と最多で、全体平均では約3.2日分だった。2010年比では「約1日分」「約3日分」と回答した人がそれぞれ約8%増加、準備していない人の割合は17%減少した(グラフ3)。震災経験別に回答を見ると、やはり、被害が長期に出た人ほど非常食を長期間分、準備している割合は多い。
■備えを生かせるか
調査では、避難時に備えた意識についても質問。非常食を備える人が増えている一方で、それを生かす行動が伴っていない様子もうかがえた。具体的には「非常食を持ち出せるようにまとめているか」との質問に「まとめていない」という回答が半数を超えている。わずかだが「どこにあるのかわからない」という人もいて、災害発生時に迅速に行動できるかどうか不安が残る結果となった(グラフ4)。
フリーコメントに多く寄せられたのが「自家用車のガソリンを残しておく」「ガソリンをなるべく満タンにしておく」など、“ガソリン”に関するものだった。震災後に物流網がマヒし、ガソリンの供給が滞って困った経験から、最低限のガソリンを備えておくという意識が高まったとみられる。
■「指示を待つ」人よりも「自分の判断で行動」が増えた
「避難する時の判断基準は何か」という質問では、2010年調査では「自治体からの避難指示や避難勧告」を待つ人(39%)が最も多かったが、今回の調査では「自分で状況を判断する」人の割合が40%と最多になり、自治体からの情報を待つ人の割合は10%減少した。情報を待つのではなく、自ら積極的に行動しようという人が増えたわけだが、こうした意識を正確な情報に基づく冷静な行動に結びつけることが重要だ。
■「震災対策していない」が46%耐震改修・転倒防止が急務
死者行方不明者が6000人を超えた阪神・淡路大震災では、負傷者も4万3000人を数えた。これらの中には家具の転倒や散乱で逃げ遅れたりケガをした人も多く含まれている。東日本大震災でも都内で家具類の転倒や、物の落下などによる被害が発生した。こうした状況にも関わらず、調査の結果では「家や家具などで震災対策を実施しているか」との質問に「している」という回答は54%で、していない」が「46%にもなった。実施している対策(複数回答)は「家具の固定」「高いところに物を置かない」「家の中に十分な安全スペースを確保」が多かったが、いずれも回答者の半数には及ばず十分とはいえない状況にある。また「ブロック塀の補強」「耐震補強」といった、家そのものの対策が少ない。対策のためには費用がかかり負担が大きいが、公的な補助を利用するなどして、家の対策をする人が増えることが望まれる。
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方