2012/11/25
誌面情報 vol34
帰宅困難者対策における避難誘導のポイントを、警視庁警備部災害対策課の 唐澤肇・管理官と小山慎・地域防災係長に聞いた。
■来訪者を守る!
まず、ハード面の対策として、建物の耐震化や本棚・ロッカーの転倒防止をしっかりすることが前提となります。当然ですが、人を留めおくためには、安全な場所がなくてはいけません。
そして備蓄。首都直下地震帰宅困難者等対策協議会の最終報告書でも示されていますが、飲食料なら従業員にプラスして、できれば来訪者分を備蓄すること。量的評価の問題もありますが、協議会の最終報告書では10%程度を検討することを推奨しています。また、懐中電灯や簡易トイレ、医薬品など、それぞれ必要に応じ備蓄をしておくことが大切です。
■誘導員であることがわかる身支度
誘導員の数は、多ければ多いほどいいですが、従業員数にも限りがありますし、建物の中に留めおくのか、外の避難場所に誘導するのか、その時の状況によっても必要人数は変わってきます。また、朝なのか、昼なのか、夜なのか時間帯によっても、来訪者の数が違いますから、臨機応変に対応するということを頭に入れておいたほうがいいでしょう。
できれば、誘導する際の先頭と後ろに一人ずつ、あとは出口や、廊下の分岐点などに配置できれば理想です。
大切なことは誘導員だと明確にわかるような支度をすること。腕章を付けるのでもいいでしょう。「ここは危ないですから外に避難しましょう」と、リーダー的な人が言うのか、一般の人が言うのでは、説得力がまったく異なります。
■大きな声とジェスチャーで落ち着いて
誘導のポイントは、移動することによるメリットを明確に伝えることです。ここよりも安全だとか、快適であるとか。メリットが伝わらないと、逆に反感を抱かせてしまいます。
一時的には、笛で注目させることも効果があるかもしれませんが、乱用すると、不安をあおって、動揺させてしまうので、使い方には気を付ける必要があります。
基本は、肉声で、落ち着いて、大きな声と大きなジェスチャー(身振り)で明確に伝えること。これが、避難者を落ち着かせる上で大切なこととなります。
有効な道具は、メガホンや誘導灯など。それからパーテーションは、導線を作るのに有効です。自然に「こっちには行けない」という心理が働きます。
群衆の中で、一人だけ騒ぎ立てるような人が出たときは、そのままにしておくと群集心理で誘発される人も出てくる可能性がありますから、できれば少し隔離して、別室かパーテーションで囲んだ場所でマンツーマンで対応にあたることなども想定しておいた方がいいかもしれません。その際には、その人の話をできるだけしっかりと聞いてあげることが落ち着かせるための処方箋になります。
■必要な情報を伝える
帰宅困難者が一番欲しい情報というのは家族の安否であったり、外の様子、特に交通機関の運行状況などです。固定電話や、携帯の充電器具などがあれば、避難者にとってはありがたいかもしれません。外の状況や交通機関の情報などをできるだけ適切に伝えていくことが求められます。いろいろな事態を想定して、あらかじめ文章のパターンなどを用意してみてはどうでしょうか。
施設によっては、キャパシティを上回って、人が受け入れられない状況になることも考えられます。その際にも、ただ遮断して入館を断るのではなく、どこに避難所があるのかなどの情報を丁寧に示せば、避難者の感情を落ち着かせる効果が期待できるかもしれません。
■とにかく訓練で回数をこなす
最も重要なのは訓練です。計画の読み合わせや、規模が小さくても実際に模擬演習してみるなど回数をこなして、マニュアルを見なくて行動できるまで練度を高めていく。例えば、建物が使えなくなったことを想定して、一時避難所のような場所まで安全を確認しながら実際に歩いてみるのもいいでしょう。
それから、実際に被災した際は誘導員と決めておいた担当者が負傷してしまったり、あるいは避難期間が長期化することも考えられるわけですから、一人ではなく、誰でも誘導にあたれるように教育して訓練しておいたほうがいいと思われます。
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方