古武術を使った救助法を覚えよう!

そこで古武術技を使います。パターンその2で、頭を持ち上げようとした際、手のひらで頭を支えていましたが、手のひらを上にするのではなく下にします。手の甲が上です。

手の甲を上にすると人が軽く起こせる(イラスト:松井 大)

利き手が右手なら、右手を相手の首の下を通し、自分と反対側の肩の下に「手の甲を上」にして入れます。無理に入れていくのではなく、最初に左手で、自分と反対側にある相手の肩を軽く持ち上げ、首下を通り肩の下に手を添えるように入れるイメージです。

左手は相手のおへその上を通って反対側の床に手をつきます。この時、自分と相手は90度の角度になっているほうが、力を効率よく伝えられます。膝は床にひざまずく形でついてみてください。右手は力をいれず、肘の角度は動かさないでください。左手で床をおさえた部分と自分の左足を基点にして、自分の上体を相手の足元側に傾けます。そうすると、簡単に人が起こせます。

なぜ?ということですが、まず、てこの原理もつかっています。しかしそこが重要なのではありません。手の甲を上にすると、腕に力が入らなくなります。そこがポイントなのです。手の力、腕の力を無効にすると、体幹の力が引き出されるというわけです。体幹の力は腕よりも強いので、火事場の・・力もそういうことです。

これは、体験していただくのが一番わかりやすいです。体の中に眠っている力を引き出せるので、自分のことが頼もしく思えてきますよ!

小学生同士で実践してもらうこともあります。自分が助けられるだけの存在ではなく、人を助けるだけの力があるんだ!とわかった時のこどもたちの表情が生き生きしていて、教えがいのある技です♪小学生高学年になると、ひとりで親を起こせるようになります。

実際の現場では、相手の90度の角度に座るとか、ガラスの散乱で手のひらを床につくのが困難になります。しかし、この手順どおりに再現するのが大事なのではありません。体幹を使えば、人が起こせるという体幹の感覚こそが現場で使えるので、体で覚えておいて欲しいのです。
 
慣れれば、手の甲を上にしなくても、体幹の力を引き出したり、使いやすくなります。

うまくいかないという方のよくあるパターンとして、癖で、腕に力を入れてしまうという方がいます。手の甲を上にしてあえて力が入らないようにしているので、力を入れることは無意味なのです。「腕の力を一切使わないこと」を意識してチャレンジしてみてください。
 
次に失敗するパターンは、相手の体重が自分の体幹の力より重たい場合です。この場合は、起こそうとすると、相手が自分のいる場所と反対側に倒れようとするので、すぐわかります。その時は、相手の重心が反対側に動くので、重くなります。相手の重心が動かないように、もう一人、助けを呼んで、反対側から、自分と同じ起こし方をしてもらいます。

2人いると、体重が重い人も軽く起こすことができる (イラスト:松井 大)

ただ、その際、反対側にいる人は、肩下に手を入れるだけで、おへその上を通って反対側の床に手をつく必要はありません。直下の床をおさえてください。2人目の人は重心が動くのを防ぐために存在するので、1人目の人のタイミングにあわせて起こしていただくだけで大丈夫です。重心の揺れを防ぐだけなので、2人目は小学生以下のお子さんでも可能です。

重心が重さの体感にとって大切なことは、荷物を軽くする方法でも説明していますので、ご参考までに。

■災害時、重いリュックを軽く感じさせる2つのコツとは?ヒントは二宮金次郎!?
http://www.risktaisaku.com/articles/-/1967

注意事項としては、脊髄損傷があるケースでは、上体を起こすことも、体をねじることも禁忌になります。この判別方法は、医療機関の指導の元の救命法などでマスターしてください。専用器具での搬送が必要になります。毛布や担架での救出もNGですので、防災技でよく紹介される身近なものを使った救出法もすべてNGとなります。