2017/04/21
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
人間を軽く移動させる古武術技
さて、最後は、人を軽く移動させる古武術技です。足の上にタンスが乗っているなどの場合、クラッシュ症候群にならないように、すばやい救出が求められます。その人を先述のように起こしたとします。足の上のタンスはジャッキで持ち上げたので、空間ができました。うしろに引きずりだせれば助かる、そんな時どうやってひっぱろうとしますか?
多くの方は、両手で相手の両脇下を持ってひっぱろうとします。そこが、一番広いからひっぱりやすそうに見えるのですね!
でも、だっこの仕方や起こす技、荷物の持ち方でもずっと重心が大事と言っていた事を覚えていますか?
脇をひっぱっても、相手の重心はおへそにあります。重心が下がるので重たいのです。重心の中心であるおへそ周辺に力を加える方が人は軽く動かせます。
足をのばしてすわっている人の背後から、相手の両手を相手のおへそにあわせます。相手の意識があれば、自らおへそをおさえてもらえばいいですが、意識がなければ、救助者が行います。両手を組ませるのではなく上下にあわせ、おへその上におくだけでいいです。相手の脇の下から自分の手を入れ、相手のあわせた両手の手首を握ります。意識がない人の手首を握ると、おへその上であわせた手がばらけてしまいます。そんな時は手首と一緒に相手の指先もつかむとよいです。
![](https://risk.ismcdn.jp/mwimgs/a/0/670m/img_a07b17c51e948809da55b3da8dc7bf5234317.jpg)
救助する人は、背後から腕をのばしたまま、中腰になってみてください。相手のおへそに最も力が集中するように意識して、そのおへその力が自分のおへその部分ひきつけられるように、2、3歩うしろに下がってみてください。
そうすると、ほとんど力をいれていなくても、人が簡単に起き上がってきます。相手の体重が重い場合は、起き上がってはきませんが、後ろ方向に動かすことが可能です。両脇下をひっぱろうとしても、びくともしなかった人でも、重心に力を入れることで動かすことが可能になります。
この場合、失敗するケースの多くが、おへそより上の部分に相手の手が動いてしまってそのままひっぱろうとしてしまうケースです。重心がずれると、とたんに重くなります。
一般的な救助法では、相手の手を腕組みのように組み、背後にまわり、脇下から自分の手を入れて、組んだ相手の手をひっぱる方法が説明されています。こちらも、脇下をひっぱるだけより断然軽く動かせますが、実験の結果、重心であるおへそを動かそうとする古武術の方が軽いと体感される方が多いです。
腕を組ませる方法は脇下をひっぱるよりも重心に近いところを動かせるので軽くなりますが、重心そのものであるおへそ部分に力を加える方が、力のない人にとって、負担が少ないからです。
力のある人であれば、どちらの方法でも変化を感じないかもしれませんが、女性やこどもに体験していただくのであれば、重心利用のほうがおすすめです。そして、女性やこどもにとって簡単な方法は誰にとっても楽な方法でもあります♪
禁忌となるケースはおへそを中心とした内臓に損傷が想定される場合です。
この技も普段使いしてみてください。「酔っ払って玄関で寝ているパートナーを移動させることができた!」という声をいただいています。
いつも使っていて、体幹や重心の使い方が日常になっていたら、普段も楽だし、災害時や子育て期、介護期も楽になれますね!
そして最も重要なことがあります。この技は自分が知っていても自分は助けてもらえない技なのです!地域の人、家族、まわりの人に広めないと自分も家族も助からないのです。ふだんから、地域の人とお友達になるスキル=共助につながる重要スキルとして、ぜひマスターしてほしいと思っています!
(了)
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』の他の記事
おすすめ記事
-
-
-
3線モデルで浸透するリスクマネジメントコンプライアンス・ハンドブックで従業員意識も高まる【徹底解説】パーソルグループのERM
「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンとして掲げ、総合人材サービス事業を展開するパーソルグループでは、2020年のグループ経営体制の刷新を契機にリスクマネジメント活動を強化している。ISO31000やCOSO-ERMを参考にしながら、独自にリスクマネジメントの体制を整備。現場の業務執行部門(第1線)、ITや人事など管理部門(第2線)、内部監査部門(第3線)でリスクマネジメントを推進する3線モデルを確立した。実際にリスクマネジメント活動で使っているテンプレートとともに、同社の活動を紹介する。
2024/07/23
-
インシデントの第一報を迅速共有システム化で迷い払拭
変圧器やリアクタなどの電子部品や電子化学材料を製造・販売するタムラ製作所は、インシデントの報告システム「アラームエスカレーション」を整備し、素早い情報の伝達、収集、共有に努めている。2006年、当時社長だった田村直樹氏がリードして動き出した取り組み。CSRの一環でスタートした。
2024/07/23
-
「お困りごと」の傾聴からはじまるサプライヤーBCM支援
ブレーキシステムの開発、製造を手掛けるアドヴィックスは、サプライヤーを訪ね、丁寧に話しを聞くことからはじまる「BCM寄り添い活動」を2022年度から展開している。支援するのは小規模で経営体力が限られるサプライヤー。「本当に意味のある取り組みは何か」を考えながら進めている。
2024/07/22
-
-
危機管理担当者が知っておくべきハラスメントの動向業務上の指導とパワハラの違いを知る
5月17日に厚生労働省から発表された「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、従業員がパワハラやセクハラを受けていると認識した後の勤務先の対応として、パワハラでは約53%、セクハラでは約43%が「特に何もしなかった」と回答。相談された企業の対応に疑問を投げかける結果となった。企業の危機管理担当者も知っておくべきハラスメントのポイントについて、旬報法律事務所の新村響子弁護士に聞いた。
2024/07/18
-
基本解説 Q&A 線状降水帯とは何か?集中豪雨の3分の2を占める日本特有の現象
6月21日、気象庁が今年初の線状降水帯の発生を発表した。短時間で大量の激しい雨を降らせる線状降水帯は、土砂災害発生を経て、被害を甚大化させる。気象庁では今シーズンから、半日前の発生予測のエリアを細分化し、対応を促す。線状降水帯研究の第一人者である気象庁気象研究所の加藤輝之氏に、研究の最前線を聞いた。
2024/07/17
-
-
災害リスクへの対策が後回しになっている円滑なコミュニケーション対策を
目を向けるべきOTリスクは情報セキュリティーのほかにもさまざま。故障や不具合といった往年のリスクへの対策も万全ではない。特に、災害時の素早い復旧に向けた備えなどは後回しになっているという。ガートナージャパン・リサーチ&アドバイザリ部門の山本琢磨氏に、OTの課題を聞いた。
2024/07/16
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方