2020/05/14
2020年5月号 パンデミックBCP
中澤 渡辺先生、経済と医療の両方に共通する指標について考えは。
渡辺 指標的なものとしては、危機のレベルを共有すること。今のレベルがいくつだからこの指揮命令系統だ、というように。そのレベルの上下によって対応する態勢を柔軟に変える。原子力やサイバー分野では、いろんなリスクや条件を見る際、医療、国民生活、重要インフラなど、影響が及ぶ可能性のある分野ごとに危機レベルを決めておいて、一番上にヒットした分野のレベルに合わせた体制で本部を立てる。主管省庁はその分野の所管省庁が務める。
オール・ハザードの危機管理では、対象分野をマトリックスで決めておき、例えば、このレベルになったら首相が全体を主導し、レベルが下がってきたら担当大臣が率いる、など。危機管理では、あいまいな状態で意思決定をしなくてはいけない。どんなトリガーイベントがあったらその先にいくのか。それぞれの分野でトリガーを引ける権限者が宣言(Declaration)を発し、国はそれに従って態勢を考える。香港やシンガポールでは、例えば台風についてはレベルいくつになると、インフラをここまで止め、学校は止める、と地域全体が事前に決められたルールに連動して行動する。いちいち調整する必要がなく、行動が早い。

中澤 河本先生、これらのフレームワークの中に、リスクコミュニケーションをどう落とし込めばいいのか。
河本 リスクコミュニケーションは全てのレベルでやらなければいけない。リスクマネジメントをやっている全てのプロセスにおいて、リスクコミュニケーションが蔦つたのように回っていきながら、これらのプロセスが動いていく。一挙手一投足にコミュニケーションが必要だ。
濱田 自衛隊的な思考過程では、行動方針の列挙と分析があり、「何が一番重要なのか」という評価が常に行われている。まずそこを決め、共有する。戦場の霧は常にある。分からないことだらけの中で決心をする。評価はフェーズごとに変わる。常に状況判断を行っていく。

河本 何をどうすれば正解かなんて誰にも分からない。その状況の中で、今、政府の譲れない線は何なのか。そのためにこういうことをやると決心する、あるいは決心しないということを説明しなければならない。何が正解か分からない中でリーダーを信頼して従っていこうと思えること。そこが大事。
秋冨 アメリカの国務省を訪れた時、危機管理を担当するセクションとして「広報」に案内された。彼らはかなりのマンパワーを広報のためだけに充てている。なぜかというと、大統領のツイッターや長官、現場の発言など、どうやったら国民に伝わるのか、安心につながるのかを常に考えている。外交に対しても、国内に対しても、国家戦略として管理している。
河本 今の政府にはリスクコミュニケーションの機能がない。それを作らなければならない。
(続く)
本記事は、BCPリーダーズ5月号に掲載した内容を連載で紹介していきます。
https://bcp.official.ec/items/28726465
パネリスト
術科学大学助教授、2010 年より現職。内閣官房、内閣府、経済産業省、国土交通省他の専門委員会委員、ISO/TC292(セキュリティ&レジリエンス)エキスパートなどを務める
軍が展開した「トモダチ作戦」で後方支援業務を担当。原子力総合防災訓練外部評価員、国際医療福祉大学大学院非常勤講師、(一社)ふくしま総合災害対応訓練機構プログラム運営開発委員長等の役職を歴任。著作に「311以後の日本の危機管理を問う」、オクラホマ州立大学国際消防訓練協会出版部発行「消防業務エッセンシャルズ第6改訂版」、「危険物・テロ災害初動対応ガイドブック」
に備えよ!』(イカロス出版)
2020年5月号 パンデミックBCPの他の記事
- コロナ危機への対応を通じて今、見直すべきことは何か(最終回)
- コロナ危機への対応を通じて今、見直すべきことは何か(その2)
- コロナ危機への対応を通じて今、見直すべきことは何か(その1)
- 人類が初めて経験する「現代的パンデミック」コロナ後の世界 どう生きるか
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/10/21
-
「防災といえば応用地質」。リスクを可視化し災害に強い社会に貢献
地盤調査最大手の応用地質は、創業以来のミッションに位置付けてきた自然災害の軽減に向けてビジネス領域を拡大。保有するデータと専門知見にデジタル技術を組み合わせ、災害リスクを可視化して防災・BCPのあらゆる領域・フェーズをサポートします。天野洋文社長に今後の事業戦略を聞きました。
2025/10/20
-
-
-
走行データの活用で社用車をより安全に効率よく
スマートドライブは、自動車のセンサーやカメラのデータを収集・分析するオープンなプラットフォームを提供。移動の効率と安全の向上に資するサービスとして導入実績を伸ばしています。目指すのは移動の「負」がなくなる社会。代表取締役の北川烈氏に、事業概要と今後の展開を聞きました。
2025/10/14
-
-
-
-
トヨタ流「災害対応の要諦」いつ、どこに、どのくらいの量を届ける―原単位の考え方が災害時に求められる
被災地での初動支援や現場での調整、そして事業継続――。トヨタ自動車シニアフェローの朝倉正司氏は、1995年の阪神・淡路大震災から、2007年の新潟県中越沖地震、2011年のタイ洪水、2016年熊本地震、2024年能登半島地震など、国内外の数々の災害現場において、その復旧活動を牽引してきた。常に心掛けてきたのはどのようなことか、課題になったことは何か、来る大規模な災害にどう備えればいいのか、朝倉氏に聞いた。
2025/10/13
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方