2020/10/30
グローバルスタンダードな企業保険活用入門
テロ・治安リスク
新型コロナウイルスによる感染拡大を防ぐために、各国ともに渡航禁止・外出自粛などのさまざまな制限を行っています。これらの施策はどうしても保護主義的な色合いを高めていくことになり、残念ながら他国・他民族・他宗教への排他的な行動につながってしまっています。こういった状況から明らかに地政学リスクが高まっているのが現状です。
新型コロナウイルスまん延後、アメリカと中国の関係が急速に悪化していますし、中国とインドも国境付近で衝突しています。北朝鮮の示威的行動も背景には新型コロナウイルスの影響があります。テロや局地的な紛争が発生する可能性が世界のあちらこちらで高まっているのです。
また、新型コロナウイルスによる経済停滞に伴い、世界的に失業者が増大しており、政府の対応への不満や閉塞(へいそく)的な社会への不安が高まっています。こういった人々の不満や不安が大規模な暴動につながるリスクも注視する必要があります。
白人警官の暴行による黒人男性の死亡をきっかけにアメリカ全土に広がったデモが暴動に発展しましたが、新型コロナウイルスがなければ局所的な事態で収まっていた可能性が高いといわれています。
最近ではタイで大規模なデモが頻発しており、一部では暴動に発展し、企業や商店が休業に追い込まれています。多くの日本企業が進出している地域ですので今後の情勢に注意を払う必要があります。
この連載の前号「第9回 再保険の手配が必要な特殊な保険 / 地震保険、テロ・治安リスク保険」でも説明しましたが、一般的な財物保険ではテロや暴動による物的損害や休業損害は補償されません。さらには警察などによる一帯封鎖が休業損害につながるというこのリスクの特殊性も考慮しなければなりません。
日本では浸透してないテロ・治安リスク保険ですが、グローバル企業であれば地政学リスクが高まっている今、検討が必要な保険です。
以上、新型コロナウイルスにより増大する3つのリスクと対処法としての保険活用について説明しました。新型コロナウイルスという劇的な環境変化の中で、前例踏襲型の対応を続けて自社の巨額損失を招かぬよう、真剣に検討することをおすすめします。
本連載執筆担当:ウイリス・タワーズワトソン 関西支店長 兼 グローバルプラクティス ディレクター 大谷和久
今回で私の連載は終了します。これまで10回の連載をご愛読いただきました皆さまに深くお礼を申し上げるとともに、わずかながらでも連載の内容が皆さまの業務にお役立ていただければうれしい限りです。ありがとうございました。
グローバルスタンダードな企業保険活用入門の他の記事
- 第10回 新型コロナウイルスにより増大するリスクと保険
- 第9回 再保険の手配が必要な特殊な保険
- 第8回 経営リスクに関する各種保険
- 第7回 グローバル企業にとっての賠償責任保険の留意点
- 第6回 財物保険活用における日本企業の問題点
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方