2020/11/06
非IT部門も知っておきたいサイバー攻撃の最新動向と企業の経営リスク
危機的な状況
警察はサーバーに残された脅迫文を頼りに犯人へ連絡を取り、「被害を受けているのは狙った大学ではなく病院である」こと、そして「患者が危機的な状況にある」ということを伝えた。犯人はそこから、システムを復旧するために暗号化されたファイルを復号する「鍵」を提供したものの、残念ながら重症患者にとっては手遅れとなり、病院到着後に亡くなられることとなってしまった。
この病院では通常一日当たり70〜120件の手術を行っているが、この日は10件程度の対応となったことも前述のメディア(*1)では報じられている。
また、残念なことにこのようなランサムウェアを用いた医療機関での被害は、今回が初めてのことではない。
2017年5月に世界150カ国以上で1万以上の組織に甚大な影響を及ぼしたWannaCryランサムウェアによる攻撃。この時は英国の国民保険サービス(NHS)で数千台もの機器が被害に遭い、1万9000人を超える患者の予約をキャンセルするなどの混乱が生じたことが、英国会計検査院(NAO)の報告書(*4)に記されている。
そして本稿執筆時点においては、米国で250の病院や診療所を運営する医療グループでランサムウェア、もしくはそれに類するものと考えられるマルウェアを用いたサイバー攻撃が発生し、250の施設すべてが影響を受け、復旧に向けての取り組みが続いている。
(同グループによる最新状況の更新はこちら(*5)をご参照ください。)
単に IT だけの話ではない
これまでサイバー攻撃による被害はサイバー空間の中だけでのことか、現実世界に実影響があるとしても情報漏えいくらいだろうと思われている方は案外多い。
しかし、今回は残念ながら人の生死にまで被害が及ぶこととなった。
サイバー攻撃というと IT部門固有の課題、しょせんはパソコンの問題じゃないかと高を括っている方も残念ながら少なからずおられ、企業や組織また外部ベンダーなどの立場でサイバーセキュリティーを推進している方々が苦慮されている一因でもある。
しかし、サイバー攻撃が「死」をもたらすのは、今回のように「人」に限ったことではない。
重々ご承知のことと思うが、企業にとっても死活問題であり、業務のIT依存度がますます高まっていく中でサイバー攻撃被害に伴う財務リスクが日々高まり続けている。
実際、ドイツの病院で狙われた脆弱性を突いたサイバー攻撃によりソフトウエア会社やゲームメーカーなど世界中の企業でも被害が発生。サイバー攻撃とは単にITだけの話としてIT機器やソフトウエアなどの毀損(きそん)といったレベルの話ではなく、同時並行的に財務損害へのインパクトが生じているのだ。
また、サイバー攻撃に伴う事業停止による機会損失やレピュテーション低下、顧客や取引先だけでなく株主への対応など多くの対応。そして、6月に改正された個人情報保護法や、グローバルで事業展開されているようであればGDPR(EU一般データ保護規則)などのような海外法規制への対応と、有事の際の制裁といったことも考えられる。
もはや、サイバーリスクとは経営リスクの最上段にある中の一つであることは、ご認識の通りである。
非IT部門も知っておきたいサイバー攻撃の最新動向と企業の経営リスクの他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方