第26回 リスク管理プロセスに「追跡」を組み込め
従来の「4T」のリスク管理プロセスは不十分
鈴木 英夫
慶應義塾大学経済学部卒業。民族系石油会社で、法務部門・ロンドン支店長代行・本社財務課長など(東京・ロンドン)。外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務め、危機管理広報・リスクマネジメントを担当(大阪)。現在は、GRC研究所代表・研究主幹、リスクマネジメント&コンプライアンス・コンサルタント(兵庫)。日本経営管理学会会員、危機管理システム研究学会会員。
2026/08/04
新 世界のリスクマネジメントの潮流
鈴木 英夫
慶應義塾大学経済学部卒業。民族系石油会社で、法務部門・ロンドン支店長代行・本社財務課長など(東京・ロンドン)。外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務め、危機管理広報・リスクマネジメントを担当(大阪)。現在は、GRC研究所代表・研究主幹、リスクマネジメント&コンプライアンス・コンサルタント(兵庫)。日本経営管理学会会員、危機管理システム研究学会会員。
最も効果的なビジネス上の意思決定は、迅速な行動よりも、意図的な抑制から生まれることが多い。例えば、リスク管理担当者は、状況が依然として不確実な場合でも、「正常に戻る」ために断固とした行動を取るよう圧力を受けることが多い。しかし、最も賢明な対応は、状況がより明確になるまで積極的に監視することである。
「許容=Tolerance」「低減=Treat」「移転=Transfer」「回避=Terminate」の4Tモデルは、リスク対応の中心的なフレームワークとして、ISO31000やCOSO ERMなどの規格にも採用されているが、組織の実際の活動を完全に反映しているとは言えない。組織は、リスク許容度だけでなく、どの程度の不確実性に対応できるかも理解する必要がある。この点において、4Tモデルには欠けている要素があるのだ。それは、リスクを綿密に監視しながら意図的に待機する、つまり「追跡=Tracking」である。このユニークな戦略的対応は、5番目のTと考えることができる。リスク管理プロセスに「追跡」を組み込むことで、組織はあらゆる状況において可能な限り効果的な意思決定を行うことができるようになる。
一見すると、4Tモデルに新たなカテゴリーを追加する必要はないように思えるかもしれない。監視は既にリスク管理の重要な要素である。リスク担当者は、リスク登録リストを更新し、管理策を見直し、リスクを再評価するが、これらは通常、別の対応策と併せて行われる。リスクを低減・移転、または許容した後、監視を行い、対応策が適切であることを確認するのである。
しかし、「追跡=Tracking」はそれとは異なる。状況が不確実すぎる、情報が限られている、あるいはタイミングが最適ではないといった理由で、あえて行動を起こさないという選択なのだ。状況が変化するまでの間、柔軟性を維持するための暫定的な戦略と言える。
環境の多くは急速に変化し、情報は徐々にしか出てこないことが多いため、リスク対応の一環として「追跡」を体系化することが重要である。時期尚早な行動は、より良い選択肢を閉ざしたり、リスクを他の場所に転嫁したりする可能性がある。このような場合、待つことは受動的な行為ではなく、特に情報が不完全な状況においては、規律と責任を伴う行為なのである。
リスク対応プロセスに追跡を組み込むための実践的な出発点は、現在のリスク登録リストを見直し、即時の対応が正当化しにくいリスクを特定することから始まる。これらは通常、複数の結果が考えられる、あるいは外部の意思決定に依存する、不確実性の高いリスクである。明確な理由もなく対応を繰り返し延期していることに気づいたら、それはリスクを無期限に延期するのではなく、むしろ、体系的な「追跡」が必要であることを示しているかもしれない。
新 世界のリスクマネジメントの潮流の他の記事
おすすめ記事
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2026/09/15
防災は面白くないと広がらない
地震が起きたとき、スマートフォンに通知された情報を頼りに避難を判断することが多いだろう。緊急地震速報の情報から、いまどのように動くべきかを判断できる、そんな身近な危機管理を習慣づけた1 社が、アールシーソリューション(東京都新宿区)だ。2010 年に提供開始したスマートフォンアプリ「ゆれくるコール」は、緊急地震速報を受信できるアプリとして多くのユーザーが利用している。代表取締役の栗山章さんは、数多くのユーザーに防災の重要性を広めてきた一方で、ビジネスとして成り立たせる難しさにも直面してきたという。これまでのサービス開発の経緯や、防災ビジネスへの価値観を聞いた。
2026/09/09
被災施設への再入場判断「戻ってはいけない」では解決しない避難後の問題
大地震が発生し、安全な場所へ避難して一息つくと、人々には「ひとまず危険のピークは過ぎた」という根拠なき安心感が芽生える。そして、さまざまな理由で「避難してきた場所に戻りたい」といった気持ちが生じる。しかし、被害がどの程度なら戻ってよいのかについての明確なルールや事例は、どこを探してもあまり見当たらない。 国には応急危険度判定という仕組みや、施設管理者が建物を緊急点検するための指針などもある。が、これらは避難直後の「戻りたいニーズ」に応える仕組みではない。ここに、避難直後の「再入場」という古くて新しい問題がある
2026/09/09
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2026/09/07
暗黙知を形式知へ、10年の徹底改善が生きた
熊本市の工務店・新産住拓株式会社(小山英文社長)は、2016年の熊本地震や近年相次ぐ豪雨災害を通じて災害対応を磨き上げてきた。発生当日は、約3割の社員が定休日で社長も不在という条件下にもかかわらず、地震発生から50分で社員の安否確認をおおむね完了し、2時間後にはホームページや顧客専用サイトで被害受付を開始した。
2026/08/24
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方