2014/11/25
誌面情報 vol46
ニッポン高度紙工業株式会社
高知市春野町に本社を構えるニッポン高度紙工業は、エレクトロニクス製品には欠かせない「アルミ電解コンデンサ用セパレータ」というパーツにおいて世界トップシェアを誇る企業だ。オンリーワンの供給責任を果たすため、鳥取県に代替拠点を構えるなどBCPを強化する一方、2012年には高知市と協定を結び、災害時には工場の屋上を、社員含め地域住民1250人の避難場所として開放することを決めた。

家電から産業用大型機器まで、エレクトロニクス製品には欠かせない部品である電解コンデンサは、テレビやビデオ、自動車に搭載されるマイコンなどあらゆる電気製品に使われており、流れる電流の性質によって通過させたり、阻止する機能がある。ニッポン高度紙工業はこのアルミ電解コンデンサ用セパレータで国内95%、海外60%のシェアを持つ。もともと高知県は、古くから和紙の生産が盛んで、「土佐和紙」と言えば平安時代の朝廷への献上品としてその名前が出てくるほど歴史は古い。
同社は1941年、今でいう産学連携の形で高知県立高知工業高校OBを中心に地元の有志で設立され、和紙づくりの技術を応用し、耐水性に優れた紙を開発。これを「高度紙」と名付けて薬の煎じ袋などを製造したことが始まりだ。
戦時中の1943年に、高度紙はコンデンサ用セパレータとして注目され、戦後の高度成長期である1961年に、セパレータ専業会社にすることを決意。以来現在まで製品に改良を重ねながら世界トップシェアの会社に成長した。専業でセパレータを作っている会社は国内に同社しかないという。
「供給責任」と「社員の安全確保」
同社執行役員管理本部長の近森俊二氏は「世界で高いシェアを頂いている分、強い供給責任がある。高知県は南海トラフ地震の危険もあり、2010年からBCP策定を開始した」と話す。
同社のBCPは、全社方針として「製品の供給責任」「社員の安全確保」の2本を基本理念に決定し、取り組みを始めた。
まず供給責任について。シェアが高い製品を製造・供給しているという認識が過去から強いため、当時はBCPといった専門的な概念ではなかったものの、独自で自然災害などへのリスク分散を行ってきたという経緯がある。生産体制では本社工場以外に県内に2つの工場を増設。生産性の向上とともに、リスクを分散させた。しかしBCP策定を進めるなか、津波被害も想定。県外工場の設立は不可欠と判断し、2012年に鳥取県に米子工場を設立する。
これほどまで供給責任にこだわる理由は、仮に同社の生産が止まった場合、電解コンデンサ市場全体に大きな影響を与え、そればかりか、あらゆる電気製品の製造が困難になり、最終的には消費者の生活まで影響が広がる可能性があることを理解しているためだ。
具体的に同社のBCPでは、高い供給責任性を考慮し、重要度に応じて製品を優先順位付けし、ハード・ソフト対策を計画的に進めていくことで供給体制の強化を進めている。
一方で、従業員を大切にする同社は、普段から「社員の安全と健康」への思いが強く、社内に「安全健康課」という部署をつくるほどだった。BCP策定は、この安全健康課を事務局として開始した。
その結果、従業員の安全確保について、地震で津波が発生した場合は、工場の屋上を社員の一時避難場所にすることを決定した。工場は海抜が7m~8m。工場建屋は高さが10m以上あるので、15mの津波が襲っても命は守ることができる。
実は高知市のハザードマップでは、比較的に内陸部に位置する同社に津波の恐れはないとされている。それでも「昭和南海地震ではここから4km北まで、そばを流れる仁淀川を津波が遡上したという記録がある。我々はそこまで想定したい」と近森氏は語る。
災害時には屋上を地域住民へ解放
災害時に地域住民へ屋上の避難場所を開放することも、同社の地域社会貢献への強い意志で始めたという。
同社は2012年4月、高知市と協定を結び、本社工場を地域の正式な「津波避難ビル」として指定を受けた。製造業の工場が津波避難場所に指定されたのは、県内で初めてだった。
避難場所に指定された2つの工場のそれぞれ屋上の広さは800㎡と450㎡。1250人の避難が可能で、同社に勤める従業員280人に加え、周辺の住民600人、さらに近隣の小学校の生徒・職員300人を全員収容できる計算だ。同社が約1400万円を負担し、両工場に外付け階段と太陽光発電による誘導灯を整備した。夜間や休日は24時間体制で警備員が対応し、備蓄は従業員の1週間分を蓄えたほか、地域の防災倉庫も設置している。避難場所に指定されてからは周辺住民や小学校の避難訓練も受け入れている。

従来の町の避難場所がある高台は、町よりも海方向の南側に1kmほどの場所に位置していた。周辺住民から、「実は津波が来た時に海に向かって避難するのは抵抗があった。高齢者が1kmも歩くのも、難しいと感じていた」と、近接する工場屋上の避難場所設置を歓迎する声が上がっていたという。
「当社は全て会社の費用で避難場所を整備したが、その後に県からの補助金制度ができ、今では新たなビルなどを整備して避難場所にする企業が増えている。県内でも先駆けた取り組みだったと思う。社員はもちろん、周辺住民を可能な限り守ることはこの地で事業を営む会社としての使命」と近森氏は話す。
誌面情報 vol46の他の記事
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方