2018/02/06
防災・危機管理ニュース

有限責任監査法人トーマツ内にあるデロイト トーマツ 企業リスク研究所は1月31日、日本国内に本社をもつ上場企業を対象に、「企業のリスクマネジメントおよびクライシスマネジメント実態調査 2017年版」の結果を公表した。 前年の同調査と比べ、今回は人材不足や長時間労働に対する労務問題に対するリスク意識が高まる結果となった。
日本国内に本社のある上場企業に2017年8~9月にかけて調査し、454社から回答を得た。これによると国内企業で最も優先して着手すべきリスクは、最多が「地震・風水害等、災害の発生」で35.9%、2位が「法令順守違反」で29.3%と、前回の同調査と同じ傾向だったのに対し、3位は「人材流失、自在確保の困難による人材不足」(23.6%)が前回6位から大幅に上昇し、3位だった「情報漏えい」(21.6%・今回4位)を上回った。 国内企業の海外拠点でも人材不足へのリスク意識が前回7位から4位に上昇し、多くの日本企業が国内の若年労働力不足と海外の人材流動性の両面に苦しむ現状が浮かび上がった。また昨今の働き方改革で関心が高まった「過労死、長時間労働等労務問題の発生」が16.1%と、前回の10位から今回7位に上昇した。
また調査では、実際に企業に危機が発生した際の対応状況「クライシスマネジメント」についても聞いた。2016年、2017年のいずれかに何らかの危機を経験したことがある企業は全体で50.4%と半数以上。2016年では熊本地震の影響もあり「自然災害関連」が最も多かったが、2017年では「人材・労務関連」が最も多かった。産業別では電気・ガス(80%)、 金融(66.7%)、 陸・海・空運(61.5%)の順に経験のある企業の割合が多かった。
またクライシスマネジメントについて調査では、過去に危機対応経験ある企業と経験のない企業で意識に違いがあることが明らかになった。クライシスを経験した企業では、 実際に危機発生時の初動対応から事態鎮静化までの対処ステージの成功要因について、「トップダウンでの迅速な意思決定」や「迅速に必要な資源を投入」など迅速なアクションを成功要因として挙げる一方、経験のない企業は 「事前の準備(規定整備・訓練)」 「事前の組織の枠組み」など比較的準備段階の要素を重視している傾向があることがわかった。
このほか、危機対応の経験の有無にかかわらず、実際の危機対応時に社内組織や関連する企業、顧客、行政、メディアに対する意思疎通をはかる「クライシスコミュニケーション」に対する意識が低い傾向があることもわかった。結果について同研究所の茂木寿・主席研究員は「これまで多くの日本企業ではクライシスコミュニケーションをあまり重視しない傾向があった。だがいまはインターネットやSNSで情報がすぐにいきわたる状況では、一般生活者や利害関係のある関連企業に対していかに正確な情報を発信し、意思疎通を図っていくかが今後きわめて重要になっていく」と改めて注意を促した。
■ニュースリリースはこちら
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20180131.html
(了)
リスク対策.com:峰田 慎二
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