2016/11/20
誌面情報 vol53
東日本大震災では、唯一、安全に運べるタンクローリーや、安全に蓄えられる油槽所が多数被災したことが状況をより困難にしたことは想像に難くない。
東北の油槽所が被災したことで、遠く離れた新潟や山形県酒田市、青森の油槽所からガソリンが被災地へと運ばれた。また、東北全体では、700台あったタンクローリーのうち150台が津波で流された。被災したタンクローリーを補うために、西日本から多数のタンクローリーが被災地へと送りこまれたが、油槽所から被災地までの運搬距離が長かったため、効率的な調達はできなかったという。被災して道路環境が悪かったことや、近年の法改正で、タンクローリーの運行時間などに制限が加わったこともローリーの回転効率が上がらなかった理由と小嶌氏は見る。
「平時なら油槽所から各ガソリンスタンドに1日に平均3往復ぐらいできていたのが、走行距離が伸びたことで1往復しかできなくなった。これでは、ローリーを仮に300台集められたとしても、3分の1分しかカバーできないことになる」(小嶌氏)。

首都直下地震で40%の製油がストップ
首都直下型地震や南海トラフ地震が起きたら、どのくらいの影響がでるのだろうか。
製油所や油槽所など燃料の供給拠点は、関東・中部・近畿の太平洋側の拠点に集中している。石油精製の約79%(うち関東が約38%)、油槽所の約60%(うち関東が約26%)、そしてLPG基地の約84%(うち関東が約36%)が太平洋側だ。この結果、小嶌氏の分析では、首都直下地震が発生した場合、最悪のケースで全国の精製能力の40%がストップすることになる。南海トラフが起きた時には、全体の34%がストップ。もし首都圏直下型と南海トラフの連動型が起こったら、あるいは首都圏から東海、南海までが幅広い地域で震度5強以上になるような大震災が起きたら、全国の71%の精製能力が瞬時に停止することになるとする。その場合、前述の通り、再稼働までには最低1週間がかかることが予想される。
これが、小嶌氏の描く最悪のシナリオだ。製油所の被災は、油槽機能まで損なうことを意味する。そのことが、さらなるガソリン不足の長期化の引き金となる。
加えて、がれきの除去など主要道路の啓開には1週間を要することが予想される。普通の車が通れるような状況になっても、タンクローリーのような大型車が動けるまでにはさらなる時間がかかる。つまり、ガソリンスタンドが仮に開いていたとしても1週間は供給が見込めない。そして、ほとんどのガソリンスタンドが非常用発電機をもっていないため、閉店が相次ぎ、開いているガソリンスタンドには長蛇の車の列ができる。
こうした状況に対し、国は、真っ先に燃料を配送する「災害対策型中核SS」を整備しているが、全国の中核SSの数は1674しかない。中核SSでは、自治体の緊急車両や全国からかけつけてきた災害援助の車両に対して優先的に給油をすることになるため、一般の自動車への販売は原則としてあり得ないと小嶌氏は言う。仮に民間企業の車両が「緊急車両」の登録を受けたとしても、基本的には、中核SSに運ばれる燃料は、あくまで消防、警察、医療、啓開用のもので、「安易に給油できると考えるのは甘い」と小嶌氏は語気を強める。
このような状況を鑑みれば、現実的な解決策は“車に乗らない”ということになる。どうしても必要なら、個人や企業は、平時から、最低1週間は、給油をしなくても、車両が動かせるように対策を講じておかなくてはならないというのが小嶌氏の主張だ。「震災後、各地で満タン運動が行われているが、最低7日分の燃料を残した形で給油しなくては意味がない」(小嶌氏)。
誌面情報 vol53の他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方