2016/07/14
誌面情報 vol53

倒壊した建物や崩れた土砂の隙間から人間の生体反応を感知し、被災者の救出を助ける災害救助犬に注目が集まっている。
一昨年に広島市で起きた土砂災害では災害対策本部に災害救助犬の担当窓口が設置されるなど、被災現場での認知度も上がり活躍の場が広がっている。
NPO法人救助犬訓練士協会(RDTA:Rescue Dog Trainers’Association)は災害救助犬とハンドラーの育成を行う組織の1つだ。災害救助犬の国内の活動状況と今後の課題を聞いた。
編集部注:「リスク対策.com」本誌2016年1月25日号(Vol.53)掲載の記事を、Web記事として再掲したものです。(2016年7月14日)
人の入れないような小さな隙間から、がれきや土砂の下敷きになっている被災者を見つけ出し、ハンドラー(訓練士)に伝えて救助をサポートする災害救助犬の活躍が目にとまるようになった。NPO法人救助犬訓練士協会(RDTA:Rescue Dog Trainers’Association)顧問の山田道雄さんは「協会が設立されて約10年になります。少しずつ認知度が上がり、被災現場で受け入れられるようになってきました」と語る。
RDTAは、災害救助犬とハンドラー(訓練士)を訓練する目的で2005年に設立された。災害が起こればボランティアとして現地にかけつけ、被害者の捜索に協力する。
昨年末、2004年の新潟県中越地震で、発生から92時間後に瓦礫の中から男の子(当時2歳)を発見した警視庁警備犬のレスター号が老衰により死亡し、各メディアで話題になったが、2007年に起きた中越沖地震では、RDTAが即座に災害救助犬とハンドラーを派遣したものの、災害対策本部の指示で捜索活動に参加できずに終わった。
初めて災害現場に立ったのは2008年に起きた岩手・宮城内陸地震だった。最大震度6強が記録され、死者13人、行方不明者10人を出したこの地震で第一陣として4頭の救助犬と4人のハンドラーを宮城県栗原市に派遣した。栗原市は被害の最も大きかった自治体で、この地震による死者13人は全て同市の市民だった。
栗原市災害対策本部からの指示で、RDTAの災害救助犬とハンドラーは、国道が土砂崩れで寸断された花山地区までをヘリで移動。捜索する現場は高さ約250m、幅約50mののり面が崩壊した場所で、流れた土砂は国道から約200m下の谷底まで及んでいた。二次災害を警戒し、救助犬だけが崩れた土砂の上を歩き回り生体反応を捜した。
山田さんは「災害救助犬の役割は生存している被害者の発見です」と説明する。結局、生存者は見つからなかったが「ご遺体には反応しないので、重機投入や捜索終了のタイミングをはかる重要な役割も担っているのです」と付け加える。
東日本大震災では、警察庁の要請により宮城県に災害救助犬とハンドラー2チームを派遣。1チーム3頭4人で構成され、合わせて6頭と8人が捜索にあたった。一昨年に74人が犠牲になった広島市の土砂災害では全国各地の団体から災害救助犬が集まり、協力して捜索にあたった。「災害対策本部に災害救助犬運用の担当窓口が置かれ、重要性の認識が広がったという確信を得たケースでもありました」と山田さんは振り返る。
誌面情報 vol53の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方