2021/09/17
事例から学ぶ
国内宅配シェアNo.1のヤマト運輸を中心とするヤマトグループは、2016 年にBCPを策定した。全国を網羅する物流ネットワークを維持するため、誰にでもアクセスできる公開情報を活用し、災害に備えている。毎年の訓練とBCPの見直しで浸透と強化を図り、目に見える成果をあげている。
ヤマト運輸
本社:東京都
❶公開情報をフル活用して水害に備える
・一般的に入手できる気象情報をフルに活用して水害リスクを事前に把握。拠点と密に連絡を取りながら予防策を徹底する
❷全国ネットワークの強みを生かす
・全国を網羅するネットワークの強みを生かし、災害時は拠点同士が連携。車両の退避場所を融通し合うほか、万が一被災した場合も近隣拠点が速やかにバックアップする
❸BCPの継続的アップデート
・訓練を通じて社員への浸透を図ることはもとより、内外の環境変化に応じてBCPを継続的にアップデート。実情に即した見直し・運用により実効性を担保する
https://www.risktaisaku.com/feature/bcp-lreaders
BCP浸透の成果
全国約3700 店の営業所で約5万7000 台の車両を駆使し、年間に約21億個の荷物を届けるヤマト運輸を中心としたヤマトグループ。同社の売上は年間約1兆7000 億円と、国内宅配便シェアNo.1を維持し続けている。
ヤマトグループは日本全国を物流ネットワークで結ぶため、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震をはじめとした数々の大災害の被害にあってきた。現在では毎年BCPのアップデートを重ね、災害対策を強化している。
ヤマト運輸コンプライアンス・リスク統括部長の宮田大資氏は「(2021年7月の)静岡県沼津市の大雨では過去の経験と降雨量から危険を予測し、事前に車両と荷物を安全な場所に移すことで浸水による被害を避けることができた。身に迫る危険を認知してからの素早い初動と事前措置の具体的行動から、BCP が浸透しつつあると実感している」と成果を語る。
7月3日に大規模な土砂災害が発生した熱海市から西方に約20キロ。伊豆半島の西側の付け根にある沼津市でも2日から大雨が降り続き、3日には市内の高橋川や黄瀬川で越水が発生した。200 棟を越える建物が床上や床下浸水の被害にあっている。
同社では7月2日に浸水の危険性がある沼津市の営業所の車両と荷物を、安全な別の営業所に移動させた。翌日に確認すると沼津の営業所は床上3センチの浸水被害を受けていた。
ヤマトグループは2016 年にBCPを策定した。2006 年に定めた危機管理マニュアルからスタートし、2009 年の新型インフルエンザ、2011 年の東日本大震災、2016 年の熊本地震の経験をもとに完成させた。「人命を最優先する」「グループ各社の事業の早期復旧を目指す」「社会的インフラとして地域社会からの期待に応える」の3つを基本方針と定めている。
この基本方針をもとに具体的な行動を示した5つのマニュアルが存在する。安全確保という最も重要な初動の指針となる「人命を守る行動マニュアル」、社長が本部長を務めるヤマトホールディングスの対策本部だけではなくヤマト運輸の各地域で立ち上げる対策本部、グループ会社での立ち上げも含めた「対策本部マニュアル」、情報機器の取り扱いや金銭的な措置までの対応を含む「業務復旧マニュアル」、被災地を支援するときに用いる「被災地支援マニュアル」、予測が可能な台風や大雨、大雪災害で事前における車両や建物、設備などの保全作業などを定めた「自然災害の手引き(台風・大雨・大雪版)」だ。新型コロナ対策の指針となる感染防止マニュアルは別に定めている。
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