2016/03/24
誌面情報 vol54
出張者行動も一元管理。旅行会社ならではのソリューション
株式会社ジェイティービー
海外で発生したリスクに対応するには、適切な情報収集と分析が欠かせない。しかしインターネットに情報があふれる昨今、信頼できる情報だけをスピーディーに収集し、適切なアドバイスを現地に伝えるのは高度なスキルが必要だ。そのような担当者の悩みを解決するため、日本最大手の旅行会社であるJTBは、世界中に張り巡らされたネットワークとこれまで同社で培ってきた経験をもとに、危機管理ソリューション『アラート☆スター』を開発した。
「お客様の海外展開が加速するなか、JTBのサービスの一環として海外の危機管理もできないかとの要望が強かった」と話すのは、『アラート☆スター』開発者である同社事業創造部GSM事業推進室プロデューサーの田邊良学氏。JTBはこれまでも旅行会社の安全管理義務として、ツアー客の海外におけるさまざまなトラブルに対応してきた。田邊氏らは、これらの社内に蓄積されているノウハウをパッケージ化したサービスを顧客に提供できないかと考えたのだ。
海外でテロなどの危機が発生した場合、危機管理担当者はどのような行動をとるだろう。まずネットやテレビで情報を収集し、人事担当者らと現地に社員がいるかどうかを確認。社員がいる場合は安否確認のほか注意喚起も行い、さらには経営層に状況をまとめて報告しなければならないなど、膨大な作業が発生する。一方で、ネパール地震やパリ銃撃事件などの例を出すまでもなく、リスクの多くは土日や休日の深夜・早朝に発生することも多く、業務時間外のため対応が遅くなりがちだ(表1)。
適切なアドバイスを迅速に
「アラート☆スター」の特徴は大きく2つ。1つは「適切なアドバイスと情報を、現地社員へ迅速にピンポイントで送れる」こと、もう1つは「日本国内の担当者がオンライン上で社員の居場所や危機の情報を把握できる」ことだ。
まず現地社員へのフォローでは、世界最大級の危機管理会社である米国のiJET社と提携し、24時間体制で危機管理情報をメール配信する。iJET社はメディアではなく、もともとは国外脱出やテロ、災害などからの人命救助を目的として設立した会社であるため、報道機関が通常扱わない程度の飛行機の遅延やストライキ、病気や自然災害のほか、金銭トラブルなどの軽犯罪情報までも広くカバーしている。
田邊氏は「ニュースではなくアラートと表現しているのは、iJET社独自の情報源により、事実だけでなく分析記事、危機回避のための行動アドバイスまで掲載している点だ。インフォメーションだけでなく、インテリジェンス(知見が含まれた情報)を提供している」とする。
例えばネパール大地震では、表2のように第1報として避難すべき場所をふくめた避難指示、第2報では治安対策、第8報では地元の疫病対策まできめ細かくフォローしている。これらの情報は、現地にいる社員にピンポイントで配信される。自分に関係のない情報が多く配信されてしまうと、メールを見なくなる可能性もあるからだ。
出張者行動を管理者が一元管理
このシステムのもう1つの特徴は、日本にいる本社の危機管理担当者や人事担当者が、海外出張者の行動とリスクエリアを一元管理できるところだ。例えば、図1はパリ同時多発テロ事件が発生した時の管理者画面のスクリーンショット。パリで警報が出されているだけでなく、隣のベルギーではモーレンバーグという都市で警察による強制捜索が始まったことや、イギリスでもガドウィック空港で爆破未遂事件が発生して避難指示が出ており、ヨーロッパ中で緊張が走っていることが分かる。
「パリの事件はテレビやネットで数多く報道されているが、その陰に隠れて危機管理担当者が把握しなければいけない情報が埋もれてしまう可能性もある」(田邊氏)
JTBでは旅行者の宿泊場所や旅程も管理しているため、地図には海外滞在者の位置情報をプロットすることも可能だ。さらに、誰が以前にその場所を通ったか、これから誰が行く予定なのかについても、あらかじめ登録しておけば表示することもできる。空港だけでなく企業の現地事業所や工場の場所も補足できるという。
これらの機能により、緊急時に危機管理担当者が行わなければいけない渡航者の居場所の把握や情報配信の作業が短縮されるほか、システムから出力されたリストにより安否確認も迅速に行うことが可能になったのだ。
手軽なEラーニングも
サービスには、時間のない出張者にも気軽に海外のリスク管理について学べるEラーニングシステムも付随している。これも日本人が注意すべき海外トラブルやリスクについて詳しい、同社ならではのサービスだ。同時に、顧客からの問い合わせが多い「状況共有サービス」も搭載した。災害やテロが発生した場合、他社が出張をどのように取り扱うのかは担当者の気になるところだ。このアンケートでは、企業規模ごとに「出張禁止」「不要不急の出張禁止」など、各社がどのように出張を取り扱っているかが分かるようにした(図2)。
田邊氏は「開発には、海外進出をしているさまざまな企業から意見を聞いた。『アラート☆スター』を活用することで、少しでも危機管理担当者の負担を減らし、危機対応のスピードアップにつながれば」と話している。
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