この連載は、事故や災害など突発的な危機が発生した際にどう対応すべきかを、架空の地域サッカークラブが危機に直面したというストーリーを通して、危機対応のポイントを分かりやすく紹介していきます。

首都圏の某市で活動している地域サッカークラブ「紅葉山FC」は、毎週木曜日の夜に市営グラウンドで練習していますが、近隣住民から迷惑駐車や騒音などの苦情があったため、4月はじめからグラインドが使えなくなってしまいました。紅葉山FCとしては苦情の原因に全く身に覚えがないものの、このままでは2カ月後に控えている公式戦に向けての練習ができません。

高宮監督が中心となって、同様に市営グラウンドを利用している野球チームやフットサルグループと協力しながら事態の収拾を図ろうとしていますが、野球チームが好意的であるのに対してフットサルグループからは協力が得られそうにありません。

そのような状況のなかで紅葉山FCの幹部メンバーは、4月8日(水)に会計担当の沢崎が経営している不動産屋に集まり、今後の対応策を話し合いました。野球チーム代表の松嶋も出席し、これまでに分かったことを情報共有しましたが、野球チーム側でも苦情の原因に心当たりがないということでした。

解決まで時間がかかる可能性が高くなってきたことで、当面の練習場所を確保することも重要な課題となってきましたが、ここで備品担当の丸山から、代替練習場所として使えそうな候補を調べた結果として、次のような表が配られました。

 

丸山:正直言ってそれぞれ一長一短ですね。

岡田(運営担当):なるほどねぇ.....。試合までの残り練習回数を考えたら、やっぱり広さ優先で考えるべきでしょうが、滝ノ上小学校に行くとなると車が必要ですね。

高宮:清水沢公園の抽選に外れたら別の場所を手配するとか、結果に応じて考えなきゃならないこともあるから、練習場所の予約に関しては、我々の間で優先順位だけ決めて、あとは丸山さんに任せることにしたらどうだろう。

丸山:私としても、そうしてもらった方がやりやすいです。

沢崎:では、まずは料金が安いところを最優先ということで(笑)。

高宮:うちの実情としてはそう考えざるを得ないよね。金銭的負担を避けるために、優先順位をまず清水沢公園、次に滝ノ上小学校、両方とも取れなかったら紅葉山スポーツクラブ、という順にして、具体的にどこを予約するかは丸山さんに一任する、ということにしよう。

丸山:分かりました。とりあえず6月の試合までの全ての木曜日に関しては、順次予約を入れるようにします。滝ノ上小学校になったら車の手配が必要になりますが、それはどうしますか?

高宮:そのときには車を持っている5人の車に分乗して行くようにしよう。岡田さん、運営担当として、この辺を調整してもらえますか?

岡田:はい、滝ノ上小学校を使うことが決まったら調整します。

丸山:滝ノ上小学校が取れた時点で私から岡田さんに直接連絡した方がいいですよね?

高宮:その方が早いね。そうしてくれると助かります。

この議論を黙って見ていた野球チームの松嶋は、事態に対して主体的に動くメンバーを羨ましく思うと同時に、自分には高宮監督のようなリーダーシップが足りないのではないか、と自省していた。野球チームは20年近く前に結成されており、メンバーの中には松嶋より年上のメンバーも少なくない。頼もしい反面、主張が強いメンバーも何人かおり、話し合いがまとまるのに時間がかかったり、険悪な雰囲気になったりすることもあった。

しかし一方で、リーダーシップがあまり強すぎても良くないと思ってもいた。どうすればこの紅葉山FCのように、リーダーシップとメンバーの主体性とをうまく両立できるのだろうか? 松嶋はその秘訣を知りたいと思い始めた。