2018/06/07
防災・危機管理ニュース
現行の消防法や建築基準法では、「倉庫」はあくまで物品を保管する建物と考えて基準が作られており、現在の大型物流倉庫のように大勢の従業員が一日中働くことは想定されていない。現行の基準法では開口部は最小限しか求められておらず、避難経路も十分でなく、消防活動も困難である。実際に今回も重機を使って外壁を破壊して屋内への進入・消火活動にあたらなければならなかった。
近年の大規模物流倉庫は作業効率化のためできるだけ間仕切りのない作業スペースを確保したいが、建築基準法では延焼を防ぐため延床1500m2以内ごとに防火区画を設ける規制がある。このため多くの大規模物流倉庫では、建物屋内に可動昇降式の防火シャッターを碁盤目のように配置しておき、緊急時にシャッターを下ろす構造になっている。今回の倉庫でも、長さ240メートル×幅100メートルの建物には、2、3階だけで全113箇所の防火シャッターが設置されていた。このように多数の防火シャッターに依存して大空間の防火区画を形成することは、建築基準法では想定していない。防火シャッターの閉鎖確率はそういう造り方に対応できるほど高くないからだ。
実際、今回焼失した2、3階の全113箇所の防火シャッターのうち、61箇所が接触不良で作動せず、また23箇所がベルトコンベヤや物品など障害物で完全に閉まらなかった。つまり6割以上が正常作動しなかった。シャッターが閉まらなかったことが延焼範囲を拡げてしまったという見方もある。
出火当時、屋内には421人の従業員がいた。このような実態から、倉庫であるにもかかわらず、人が常時いる部分は基準法上居室とされていた。このため、単なる倉庫よりは避難対策がなされており、天井高が高く煙降下に時間がかかったこと、避難訓練を行っていたこと、たまたま朝礼の時間帯でまとまって行動できた人も多かったことなどもあって、なんとか全員避難することができた。
少し避難が遅れれば、火災で照明機器がショートして屋内は真っ暗、屋内には大量の可燃物を含め物品が所狭しと高く積み上がり、搬送用のベルトコンベアが縦横無尽に敷かれ、否応なしに閉まるシャッターに行く手を遮られ、避難が大幅に遅れてしまう可能性もあった。消火活動でも、幾重にも閉じられた防火シャッターを潜って消火現場にたどり着くのに大きな手間と時間を要するし、危険な状況になった時に素早く待避することも難しい。今回犠牲者がいなくて済んだことは幸いだが、多数の犠牲者が出る危険性が明らかになり、大きな課題が突きつけられた。
このように現行の法規制が大規模物流倉庫を想定して作られていないことは、設計者は薄々わかっているのではないかと思うが、施主はそこを理解できておらず、消防法・建築基準法の基準さえ守っていれば必要十分な安全配慮がされていると考えている。それ以上の防火措置は単なるコスト増要因として切り捨てられてしまう。設計者は、そうした施主の意向に沿うため、避難安全検証法を適用して、階段の数を少なくするなどコストカットの提案さえする。そこに大きな落とし穴がある。
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